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明神池への参拝@長野・上高地
オンシーズン、人で溢れる河童橋周辺も、朝8時というだけあってまだ人は疎らだ。
ここで一旦、上高地バスターミナルへ行き、帰りの乗車整理券を予約する。時間は13時半。
大正池から河童橋まで、止まらず歩いて1時間のところ、大体1時間半くらいかけて歩いてきた。
途中で川岸で遊んだり、写真を撮ったり、丸太に腰掛けて朝食をとったりと、自由気侭に過ごしてきたせいだろう。

上高地バスターミナルより先、明神池方面はバスが通っていない。
一度行ったら、徒歩で帰ってくる必要がある。
明神池への往復は平均2時間。自由気侭な自分のペースで行くならば、きっと3〜4時間は見たほうが良いとの計算だった。

河童橋をスタートし、向かって右岸のキャンプ場を通るルートで進む。
なだらかな傾斜があるが、疲れるほどではない。大正池からの道とは異なり、ひたすら森林の中を歩む。

そしてやがて見えてくるのは、森の中にこつ然と現れる現代アート。

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最近流行りの現代アート。そのインスタレーションの一つかと見紛うような風景は、そう、キャンプ場。
様々なビタミンカラーのテントが森の中にビビッドな色彩を落とす。

朝のキャンプ場では、洗濯物を干す人、輪になって朝食を食べる家族など、過ごし方は様々。
中には、ほーほーと尺八を吹く人までいてびっくりした。ホーホー、ホーホー、という山鳩の鳴き声に混じって、やけに音階をなぞる鳴き声があると思ったら、おじさまの吹く尺八だった。
朝の山で尺八。なんと優雅な一日の始まりだろう。

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キャンプ場を過ぎると、向こうから歩いてくる人がやけに多くなった。
子供一人分くらいあるのではと思われる大きな登山リュックを背負った、本格的な登山客だ。
実は、私が向かっている明神池のその先には、横尾という場所がある。ここは槍ヶ岳、穂高への本格的な登山の出発点、いわゆる登山基地になっているのだそう。
すれ違うのは、そこから降りてきた登山客だろうと思われた。

5、6メートルごとに次、また次と登山客とすれ違う。
向こうから見たら、私の前も後ろもぽつりぽつりとしか人がいないのだろうけれど、私から見たら次から次へとやってきてびっくりした。

"こんにちは"
"おはようございます"

人によって挨拶が違うので、最初は「こんにちは」と言われて、間違えて「おはようございます」と返したりもしてしまった。
「次の人は"こんにちは"かな? それとも"おはよう”かな?」と、頭の片隅で考えながら進む。なんだかゲームみたい。
朝の山の空気に、もう清々しくて声を出さずにはいられない、と言った元気な登山客もいれば、もはや疲労困憊声も出ず、口の形だけ"おはよう"と動くものの声にならない登山客もいる。
数人のチームから大学の登山サークル団体もいれば、たった一人で登ってきたと思われる人もいた。

1時間くらいだろうか。特に止まることもなく、ずんずんと早いペースで遊歩道を進むと、人がたくさん見えてきた。
明神池を拠点とする宿、明神館だ。
一度トイレ休憩をして先へ進むと、次に見えてくるのは橋、そして山。
いよいよ穂高連峰を臨む絶景のパノラマが広がる。

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明神池は、穂高神社奥宮の神域内にある。梓川にかかる明神橋を渡り、さらに山へ近づくと、こつ然と真っ赤な鳥居が現れる。
穂高連峰を眼前に臨むこの奥宮の中には、一之池、二之池という2つの池がある。これを明神池というのだそう。
神域なので、中に入るには参拝料が必要になる。300円の参拝料と、せっかくなので御朱印も頂いて中に入る。

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一見、黄土色の沼地のように見えるが、良く見ずともすぐにわかる。池の中がすっかり見えるほど透明な水。
そして、すいーっと音もなく、大小何匹もの魚が横切っていく。イワナだ。
数匹が向き合ってすれ違ったり、同じ方向に泳いだり。自由気侭な山暮らしの魚たちの姿に、なんだかほのぼのする。

明神池のほとりに転がった丸太に腰を下ろし、穂高連峰を仰ぎ見る。
雲一つかからない快晴。すっと抜けるような濃く、高い空。

上高地へ来て、ずっと感じていたことがある。
この辺りの植生は、自分が馴染んだ土地のそれとは違うような気がすること。
それがこの明神池に来てやっとわかった。

明神池の向こう岸に、いくつもクリスマスツリーのような針葉樹がある。
ずっと感じていた違和感の原因はこの樹木。モミの木だ。
シラビソというらしい。北東北の山々で良く見かけるアオモリトドマツに似ているが、あちらはもっと筋肉隆々、力強く見えるのに対し、こちらは繊細な感じがする。そして、まっすぐ綺麗な三角形。まさにクリスマスツリーの姿。

北東北の山々を歩くと、圧倒的に優勢なのはブナであるように感じる。
もう少し上に上がると、白い幹が綺麗なダケカンバ。いずれも繊細な曲線を持つ樹木だ。
でも、この上高地では、針葉樹から広葉樹まで色々な種類の木々があるものの、景色の中でこのモミの木(シラビソ)が占める割合がやや高く感じた。
それが自分にはとても新鮮で、なんだかアメリカ北部、ワイオミング州あたりの針葉樹の森(注:映画でよく見るイメージ)にでもいるんじゃないかという気にさせられた。

ひとしきり明神池を楽しみ、穂高の神秘的な山々に一礼をして、帰途についた。
今度は、来たときと反対側の岸を、梓川に沿って歩く。

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帰り道、往路よりも長く感じる遊歩道を歩くと、やがて再び湿地の多いエリアに入る。それが岳沢湿原。
ここまで来ると、ゴールの河童橋はもうすぐ。

湿地の中で、鮮やかな緑の水草が流れる川に沿ってゆらゆらと揺れて、とても涼しげな風景に出会う。
また別の湿地では、筆洗バケツに碧とグレーを落としたような池。複雑な模様がとても美しい。
そして次の湿地では、カモが一生懸命えさをとっていた。
じゃぼんと潜ると、可愛いお尻をふりふりしながら、なんだかちょっとへんてこな図。
そして再び顔を出すと、またすぐじゃぼんと水に顔を入れる。それを、10回、20回と、休まず繰り返すものだから、ついつい目当てのものがとれたのかと気になって魅入ってしまう。
とても精が出るカモで、結局私が立ち去るまでの15分間、休むことなく潜り続けたのだった。

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そして、再び戻ってきた河童橋。到着したのは結局11時。
戻ってくると、周辺には人がたくさんで、いよいよオンシーズンの人混み溢れる上高地と言った感じだった。
今から歩き出す人の姿がたくさん見える。
元気そうな人々の姿とは裏腹に、私の脚は棒のよう。でも、心はこの澄み切った青空のように晴れやかだ。

バスは13時。それまで何をしようか。
時間はまだたっぷりある。まずは腹ごしらえでもしようかな。
by norlie | 2012-08-15 23:16 | ぷらっと甲信越・北陸
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