なめこ汁と高尾山
高尾山山頂から10分くらい歩くともみじ台に着く。
その先の一丁平を越え、城山や影信山、堂所山を通って陣馬山まで行くルートは奥高尾と呼ばれ、約5〜6時間かかる。 山頂でご飯を食べ終わったのは14時過ぎのことだったので、今回はそのルートへは行かず、もみじ台で少し休んで1号路を引き返すことにした。 もみじ台に、おいしいなめこ汁をいただける茶屋があると聞いて、ずっと行ってみたいと思っていた。 細田屋というそのお店へ行ってみると、お店は大繁盛。 たくさんの人が木の長椅子に座って、なめこ汁やお蕎麦を頂いていた。 幸い、昼を大分過ぎていたこともあり、20分待てばなめこ汁を頂けるとのこと。 少し待っていると、長椅子の席が空いたので、腰を下ろすことにした。 長椅子に腰を下ろすと、ちょうど富士山の方角に太陽が来ていた。 昼過ぎの、少し西に傾いた日差しが降り注ぎ、背中を向けて座っていると、ぽかぽかととても心地いい。 大学生くらいの男女3人が、しきりに「あー気持ちいい、背中がめっちゃぽかぽかする。あー最高」と言っていて、その平和な光景に思わず笑みが零れた。 お日様に背中を預けて、山のほうを向いてみると、黄金色に染まった木々と、真っ赤な紅葉の対比がとても美しかった。 日溜まりの中、こんなに色鮮やかな秋の木々に囲まれて、背中はぬくぬく、体はぽかぽか。 長椅子の座布団に座って、なめこ汁を待つ時間の緩やかさはとても心地いい。 そういう時間をそこにいるたくさんの人達と共有できるのは都会の山ならではだなあと思った。 田舎の大自然独り占めもまた最高だけれど、こんなふうに大勢の人達と同じ時間を共有するというのもなんだか人情味があって、いいもんだなと思った。 15分くらいで「12番さーん」と呼ばれた。 私の札の番号だ。 人混みを縫って受け取りに行くと、四角いお盆にのった焦茶色の大きなお椀を手渡された。 お椀の中にはなめこ汁がなみなみと入っていて、「お盆が滑りますから気をつけてね」と言われた。 せっかくのなめこ汁を落とすものかと、そろそろゆっくり歩いて、やっと自分の席に戻ってきた。 なめこ汁は熱々で、大きなお椀からゆらゆらと白い湯気が昇っている。 三つ葉がたくさん散らされていてとても美味しそう。 少し啜ってみると、茸の風味とお味噌の香ばしさが口に広がって、その後、喉から下に熱いお味噌汁がじんわり落ちていった。 鮮やかな紅葉と山々の稜線、そして富士山を眺めながらいただくなめこ汁は美味しさも一入。 なみなみたくさんの量が大きなお椀一杯に入っているところも、とても嬉しい。 海で頂くあら汁がとっても美味しいように、山で頂く茸汁もきっと二割増に美味しいに違いない。 もみじ台を後にして、帰りの1号路へ向かった。 途中、薬王院を通ると、見事に染まった紅葉があちこちに葉を揺らしていて、なるほど、これは文字通りのもみじ祭りだと思った。 木の種類が統一されているようで、どれも一斉に染まっているように見えた。 薬王院の建物に、時には寄り添うように、時には覆い隠すように佇むもみじは、着物のように雅で美しい。 どの木々もとても立派で、改めて、高尾山って自然豊かな山なんだなあと再認識した。 薬王院を過ぎてもう少し降りると、関東平野を大きく見渡せる場所に出る。 そこからは私が日頃暮らす、東京や横浜が見える。 遠くにすっと建つ大きなビルは、裾が広がるその独特の形からすぐにランドマークタワーだと分かった。 あの麓に自分の家があるのだと思うと、なぜか少しほっとした。 ランドマークタワーの向こうに、背の低いなだらかな山が見える。 横浜の向こうに山なんてあったっけ、と思ったら、それはどうやら千葉の房総半島とのこと。 こうやって見ると、東京湾はとても小さく、神奈川と千葉は湾を挟んでなんて近いのだろうと思った。 今度行ってみようかなと思えてくる。 普段から気づいていたことだけれど、こうやってみると改めて実感するのは、関東平野はまさに文字通り平野なんだなということだ。 横浜で暮らして、電車に乗ったりしていて、いつも不思議に思っていたのは、どちらの方角を見ても山がないこと。 私が生まれ育ったのは港町だが、それでも背の低い町の向こうには山が見えて、あるいは別の方角の遠くには八甲田山系が見えた。 それは車で岩手にドライブしても、秋田へ行っても、北海道へ行っても同じで、どこにいても、どこかの方角には山の稜線が見えた。 山形や長野ほどの大きな山に囲まれている訳ではなかったけれど、それでも山の稜線は見えて当たり前の風景だった。 だけど、東京や横浜で電車からずっと遠くを眺めても、山の稜線なんてどこにも見えない。 横須賀線から、少しだけ背の低い山の稜線が見えたときは随分感動したことを覚えている。 あの山はなんだろう? どこの山なんだろう? 東京で初めて見た、そして唯一見えた山の稜線にとても興味を持った。 その山こそ、この高尾山を初めとする山々だ。 紅葉美しい高尾山。 予想以上に色鮮やかで、紅、緑、黄と美しい3色入り交じった華やかさはとても見事だった。 大混雑ではあるけれど、これを見るために毎年来てしまう人の気持ちはわかるなあと思う。 元気が出る、そんな色合いの高尾山。今度は陣馬山までの縦走コースに挑戦してみたい。
by norlie
| 2013-11-29 22:00
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