■ 『めがね』を観る
『かもめ食堂』のスタッフが再結集した、と話題の映画『めがね』を観てきた。
公開初日。劇場は、前から後ろまで満席。同じ公開初日でも、場内にわずか10人弱で観た『かもめ食堂』とは大違い。 老若男女、家族連れからカップルから独り者まで、シアターの中は様々な顔ぶれ。 「旅に出るように、映画を観に来てください」 とCMでおっしゃっていた小林聡美さんの言葉どおり、与論島まで旅に出るつもりで映画を観に来たのだけれど、これまた大きなツアー旅に来てしまったものだなあ。 キャッチフレーズは「何が自由か知っている」 自由を知りに、旅に出る。 映画の序盤は、なんとも釈然としない空気感が続く。 澄んだ碧い海も、南国独特の自然も、とても美しいのに、主人公のタエコさんはどうもそこに溶け込めずにいる。 その心持ちは、多分観ている私たちも同じで、与論島のゆったりとした時間の流れと、都会から持ってきた自分たちの時間の流れが違うものだから、なんとなく落ち着けない。 せっかく与論島まで来たのに、観光もなし、イベントもなし。「何しに来たんですか?」と聞かれても、なんと答えていいのやら。 そんなタエコさんが、ゆっくりと与論島に時間の流れに溶け込んでいく中盤から終盤にかけて、自分もゆっくりとシンクロしていくのがわかった。 この映画のもうひとつの魅力。毎日食卓に並ぶ朝ごはんの美味しそうなこと。 鮭やらトーストやら玉子焼きやら、全然珍しくないのに、オードブルのようにきらきらと輝いて見えるご飯たち。この『食』の描き方は、なんとも『かもめ~』に通じるところ。 光石研さん演じるユージさんが作ってくれるのだけれど、ユージさんのあの朗らかな笑顔も、ご飯と同じくらい素敵で、味わい深い。 この映画のテーマは『旅』と『自由』のようだから、与論島での時間は決して永遠ではない。 終盤、加瀬亮さん演じるヨモギくんがいう。 「旅は思いつきで始まるけど、いつか終わりが来る」 (正確には覚えていませんが、こんな様なことを言ったのがとても胸に響いた) それは、旅に出る誰もが持つ、旅の終わりの寂寥感。 私も、いつどこへ旅に出ても、帰途につく2日くらい前から、必ず感じる思い。 パンフレットに書いてある言葉をひとつ。 "You live freely only by your readiness to die." 人生を長い旅に例えるなら、この言葉は、『めがね』の中ではで大きな意味を持つ。 自由に生きるために、ヨモギくんの言葉を、真摯に受け止められればと思う。 …なんて、難しいことが頭を巡ったのも、与論島でのたそがれあってこそ。 観終わった今は、本当に旅に出て、帰ってきた気分だ。 隣に座っていたご家族のひそひそ話を聞いていたら、どうやらご実家がこの与論島にあるよう。ときとき映る町のシーンでは、「おばあちゃん家、あの右のほうだよね!小さく映ってるよ!」とお嬢さんがはしゃいでいた。よかったね! 旅は楽しい。この夏、私は旅という旅をできなかったけれど、『めがね』のおかげでのんびり与論島を味わえました。
by norlie
| 2007-09-22 16:30
| Movie / TV
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