カテゴリ:ぷらっと甲信越・北陸( 15 )
 
富士と芝桜@山梨・富士河口湖町
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富士山麓にて、毎年4月から5月末まで開催される富士芝桜まつり。
名峰富士とその裾野に広がる一面の芝桜を観に、快晴の週末、富士河口湖町へ行ってきた。

富士芝桜まつりは、2008年に開催されたのが最初で、本栖湖近くの富士本栖湖リゾートで開催されているのだそう。
そして、実はこれまで富士山の近くへ行ったことが一度もない私は、広大な敷地に咲く芝桜だけではなく、間近で富士山を見られるのも楽しみにしていた。
これまで最も近くで見たことのある富士山は、東海道新幹線からの、静岡から見た富士山。
都内から、湘南から、そして東北新幹線からも見える日本一の山を見ると、いつでも皆笑顔になる。
日本人のみならず、世界中から愛される日本の名峰を、是非間近で見てみたいとずっと思っていた。

会場までの道路やバスはものすごい混雑だったけれど、会場内へ入ると敷地が広いので、混雑はそれほど目立たず、少し冷たい春風とおいしい空気が吹き抜ける気持ちいい場所が広がっていた。
歩き始めるとあちこちから甘い花の香りが漂ってくる。
芝桜の植付面積は2.4ヘクタール、数にして約80万株とのこと。あまりに大きな数字で想像もつかない。

そしてなんと行っても、広がる芝桜の絨毯の向こうに、青空のもとくっきりとそびえ立つ名峰富士。
3,776メートルというその高さと、何より完璧な左右対称性。
上のほうに雪の残る姿がまた美しく、まさに日本の象徴と言えるような雄大さと美しさを兼ね備えた山だなあと思った。
麓で見上げていると、なんだかつい手を合わせたくなってしまう。
信仰を捧げたくなる気持ちも分かるような気がする。

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会場内に植えられている芝桜は色や品種が様々で、よく民家の庭で見かけるビビッドなピンク色のスカーレットフレームや真っ白なリトルドット、柔らかなピンクのオータムローズなど、様々な色の芝桜絨毯が広がっていた。
私が気に入ったのは、ストライプ模様が素敵な"多摩の流れ"という品種と、紫色のオーキントン・ブルーアイ。
よく見ると花や花弁の形なども微妙に異なっていて、一つ一つに愛らしさが溢れている。
この日はどこも満開で、まさに絶好の芝桜日和。

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ビビッドな芝桜のピンク色と、くっきり晴れた青空のコントラストが美しい。
空と大地の間には、まっすぐそびえ立つ富士の山。

ここへ来る富士急行線では、様々な角度から富士山を見ることができるのだけれど、どの角度から見ても富士山は完璧に同じ形をしているのに驚いた。
分かってはいたけれど、本当に美しい円錐形の山なんだなあ。
雪の模様だけが、先程見た角度と変わったことを教えてくれる。

富士山の、胸を打つ美しさ。そして、芝桜との響宴はさらに華やかで印象的な景観。
豊かな自然と、長閑な富士河口湖町の風景のおかげで、存分に休日気分を味わって、のんびりすることができた。

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帰りは大月駅の駅前にある月cafeというカフェレストランでディナーを頂いた。
店の雰囲気もよく、リーズナブルなメニューで、量も多め。
イタリアンとフレンチのメニューが並び、ビーフシチュー、ペスカトーレ、イタリアン銀串焼とりをオーダーしたのだが、これが期待以上の美味しさでちょっとびっくりした。
私が頂いたペスカトーレは、パスタが隠れるくらい魚介たっぷりでトマトソースもとても美味しい。
それから、イタリアン銀串焼とりは、グリルされた柔らかい鶏肉が、様々なハーブやガーリック、アンチョビなどのソースと合わさり、何層もの様々な深みのある味に仕上がっていた。
駅からのこの近さに加え、お店の雰囲気もよく、またカウンターには地元の常連客らしき人達もいて、和やかなムードが心地よかった。

大月市には猿橋という有名な橋があったり、四方八方に様々な山がそびえ、トレッキングも楽しめそうだったので、次は大月市を歩きに来てみたいものだなあと思った。
大月市の山々からも、きっと美しい富士の姿を臨めることだろうと思う。
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by norlie | 2014-05-24 10:48 | ぷらっと甲信越・北陸
 
30分の贅沢@富山・ヒスイ海岸
富山から東京への帰り道。途中、北陸本線の越中宮崎という駅で降りることにした。
駅から徒歩数分で海岸に出られるということで、是非日本海の海を見て帰りたかったからだ。

宮崎海岸という名の浜辺は、珍しいことに砂ではなく砂利浜だった。
砂が巻き上げられないので、打ち寄せる波が透き通っていて、エメラルドグリーンの海がとても美しい。

海で泳ぐのが苦手な私でも、思わず水着を持ってくれば良かった思ってしまうほど、綺麗で透き通った海だった。
しかもこの日は風が凪いでいて、波も小さい。
日本海といえば「ザッパーン」と激しい荒波打ち付ける海岸を想像していたが、大分イメージと違ってびっくりした。

思わぬ好条件に、膝上まで七分丈のパンツを捲って、ざぶざぶ海に入った。
冷たすぎず、気持ちいい。

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海岸は海水浴場になっていて、ぽつりぽつりと海水浴客も見て取れた。
だが、湘南のビーチのような芋洗いの混雑とはほど遠い。
まるでプライベートビーチのように快適。

こうなると、ますます、水着がないことが惜しまれた。
もし水着を持ってきていたら、すぐにでも着替えて飛び込んでいたところだ。
立山黒部アルペンルートを走破する旅で、まさか水着が必要になろうとは思いもしなかった。

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この宮崎海岸は別名『ヒスイ海岸』と言うらしい。
日本では数少ないヒスイの原石が打ち上げられる海岸だという。

自分の誕生石の一つが翡翠ということもあり、是非探してみたいものだと思ったが、ここにいられるのは次の電車が来るまでの30分だけ。
それで見つかるとも思えないので、今はのんびりとこのエメラルドの海を楽しむことにした。

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越中宮崎駅は、国道8号線沿いにある駅で、道路を挟んだすぐ向こう側にはすぐ山が迫っている。
そちら側を見れば、山間の風景にすら思えるのに、後ろを向けば、海辺の松のすぐ向こう側に青い海が広がっている。
田舎の風情漂う、とても雰囲気の良い駅だった。

たった30分の寄り道だったけれど、軽い気持ちで降りたにしてはあまりに贅沢な浜辺のひととき。
心地よい静けさと波の音に包まれた、夏の遠出に相応しい海岸は、旅の締めくくりにすばらしいエッセンスを加えてくれたのだった。
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by norlie | 2013-09-13 20:37 | ぷらっと甲信越・北陸
 
祝・初北陸@富山
以前からずっと北陸へ行ってみたいと思っていたが、まさか最初に足を踏み入れるのが富山になるとは思わなかった。

というのも、友人が富山にいるのでいつか訪ねたいとは思っていたが、東京から富山へ向かうなら、新幹線で向かえば必ず新潟から入ることになるので、最初は新潟だろうと思っていた。
また、金沢へ行ってみたいとも思っていたので、そちらが先ならば、おそらく飛行機で石川県へ降り立つことになるだろうと思っていた。

それが蓋を開けば、まさかの長野県から富山県である。
人生で初めて降り立った北陸は、富山になった。
人生、実際になってみないとどうなるのかわからないものだなあと思うことしきり。

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富山ではなんといっても日本海の新鮮な魚介を、ということで、夕食にお刺身を頂いた。
本当は寿司店に行ってみたかったが、立山黒部アルペンルートしか調べてこなかったため、富山の美味しい寿司店など急には探せるはずもなく、ホテルの最寄りにあった和食屋で、刺身の盛り合わせを頂いたのだった。

日本海有数の漁場として知られる富山県。
生まれも育ちも現住所も一貫して太平洋側の港町なので、日本海の魚を頂けるというのは個人的にも滅多にない機会だった。

急に入った店にしてはなかなか味がよく、お刺身もとても新鮮。
特に甘海老と白海老は、身がとてもぷりっとしていて口に入れるとふんわり甘く、とても美味しかった。

またもう一つとても美味しかったのが、昆布〆。
昔から昆布締めが好きで、自宅でもよく白身魚を昆布締めにするのだけれど、富山の郷土料理だとは知らなかった。

そして、自分流の"なんちゃって昆布締め"とは異なり、しっかりと郷土料理として作られた昆布〆。
二枚の昆布の間に白身魚がぴったり挟まれ、しっかりと締まった身が昆布と一体化して、何とも言えぬ味わい。
これはうまーい! 「富山に来たら昆布締め」、これからも合い言葉にしようと思う。

他にも氷見うどんという何とも涼しげな名前のうどんをいただき、舌鼓を打った。
富山は美味しいものが多い場所なんだなあ。

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富山に着いたのは夕方遅くだったので、夕食を終えるともう夜も更け、多くの店が閉まる時間帯だった。
せっかく初めての北陸、初めての富山なのでどこか観光したいと思い、ホテルのすぐ近くにあった富岩運河環水公園というところへ行くことにした。

夜景が綺麗だという前評判通り、園内へ足を踏み入れると、まずライトアップされた天門橋が目に入った。
両岸の展望塔の間をアーチ型の橋が渡していて、とても綺麗で品がいい。

もともと水辺の公園が大好きな性分なのだが、こちらの公園もまた一目で好きになった。
広々とした運河沿いに、これまた広々と美しい芝生の公園。そして茶色に統一された上品な建造物。
都会的ながら、自然を上手に取りこんだ空間の使い方が心地いい。
運河に映り込む夜景の美しさには息を呑んでしまう。

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そして夜の散歩の寄り道にはとてもありがたいことに、こちらの公園内にはスターバックスコーヒーがあった。
それも全国でも数えるほどしかない、コンセプトストアの一つである。
「水と芝生が広がる憩いの場」をコンセプトとしたスターバックスコーヒー富山環水公園店は運河のすぐ傍にあった。
全面ガラス張りなので、店の中にいても、まるで公園内に座っているようなオープンな感覚。

水辺の涼しい空気の中、飲み慣れたアイスカフェモカを頂く。とても幸せなリゾート気分。
園内遠くに手持ち花火をやっている人達もいて、夏休みの空気に溢れている。

食材美味しく、広々と開けた心地よい公園あり。そして内陸には立山連峰がそびえ立ち、美しい稜線を臨む町。
友人がいることもあり、またきっとここへは来るだろうと思う。
そのときは是非この公園の昼間の美しさを見に来よう。そして、あの美味しい昆布〆を頂こう。
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by norlie | 2013-09-06 19:31 | ぷらっと甲信越・北陸
 
旅先で地理を学ぶ@長野・信濃大町
室堂平、黒部ダムの話とは前後してしまうが、旅の初日は長野に一泊した。
上高地の旅で二度訪れた松本市、安曇野市をさらに北上した先にある大町市が、立山黒部アルペンルートの玄関口にあたる。

初日はほとんどが電車の旅だった。
電車を乗り継ぎ、乗り継ぎ、信濃大町駅に辿り着いたのは16時頃。
明日の山越えのためにもと、体力を温存して早めにホテルに向かった。

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ホテルに到着して、周辺を少し散歩することにした。
北アルプス山麓にあるホテルの林には、西に傾きかけた夏の日差しが差し込み、幻想的な美しさだった。
刺すような日差しも、この長野の標高の高さと木立のせいか、心持ち優しい。

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ホテルでゆっくり周辺の地図を見ると、信濃大町まで私達を運んでくれた大糸線という電車は、この先で白馬駅を通るらしい。
スキーで有名な白馬がこのあたりにあることを初めて知ったのだった。

地図を見てみると、この大町市と白馬村は長野県の北西部の県境に位置する。
明日越える立山黒部アルペンルートは、黒部ダムから富山県になるので、長野県が富山県と接していることはわかっていた、こんな北西部まで来ていたんだと知る。

上高地へ向かったときは、岐阜へ抜けるルートが同じパンフレットに載っていた。
そうか、長野の西側は岐阜県かとそのとき改めて認識したのを覚えている。

そこでふと思った。
そういえば長野県は一体いくつの県と接しているのだろう?

普段、東京から松本へ来るときは山梨を抜ける特急あずさを使うので、東側には山梨県があるはずである。
一方、新幹線で軽井沢や長野へ向かうときは、途中で高崎駅を通るので、群馬県とも接しているはず。
でも、それでは山梨と群馬ってそんなに近かったっけと思って、実際に地図を見てみると、長野県の東側には上から群馬県、埼玉県、山梨県が隣接している。そうか、群馬と山梨の間に埼玉県があったのか。

そして驚いたことに、南側には静岡と愛知、両県が隣接している。逆に北側には新潟県が隣接。
つまり、長野県は8つの県と隣接していることになる。
ちなみに、長野県は隣接県の数が日本一なのだそう。納得である。

隣接県が2つしかないのが当たり前の県で育っているので、これにはびっくりした。
大きな県だとは思っていたし、そして海のない県だとは思っていたが、こんなにもお隣様を持っている県だったとは。

ちなみに、隣接県が最も少ないのは長崎県。お隣の佐賀県1つだけである。
海に開いた有数の港町となったのにも納得。

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ホテルのロビーのパンフレットを眺めながら、ひとしきりそんな地理の勉強を終えた後は、紫陽花の咲く小道へ。
鎌倉では一ヶ月以上も前にとっくに終わった紫陽花が、ここでは今が盛りと美しく花開いていた。
それだけでもこの場所の涼しさがよくわかる。

コンクリートジャングルの首都圏の酷暑から逃げるようにやってきた長野の旅。
高い標高とたくさんの木陰のおかげで、昼間は素晴らしい避暑地。
そして、夜には数えきれない無数の星空と、白く流れる天の川に、以前訪れた沖縄の離島を思い出す。

長野の地理を知り、長野の涼しさを知り、またいっそう長野が好きになったのだった。
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by norlie | 2013-08-30 18:27 | ぷらっと甲信越・北陸
 
峡谷の虹@立山黒部アルペンルート・黒部ダム
室堂平と前後してしまうが、長野側の扇沢駅からトロリーバスへ乗って最初に行き着く見所が、かの有名な黒部ダムである。

"かの有名な"と書いたが、私自身は一昨年まで知らなかった。
一昨年、行ってきた知人から「日本一のダム」「一度は行ったほうがいい」「大迫力で美しい」と聞かされたのだが、正直私の頭は疑問符でいっぱいだった。

ダムの日本一? 貯水量日本一なのか、深さ日本一なのか、はたまた単に知名度日本一なのか?
美しい自然湖に惹かれる私は、人口湖のどこにそんなに"一度は行ったほうがいい"ほどの魅力があるのか、簡単には想像できなかった。

そうして今回、黒部ダムを訪れるにあたり、自身が知るダムの世界がどれだけ狭いものだったかを知った。
ダムなんてそこら中にあると思っていたのだが、よく考えると自分は、青森の青葉湖(世増ダム)、浅瀬石川ダム(虹の湖)、秋田の太平湖(森吉ダム)、岩手の御所湖(御所ダム)など、地元付近の小さなダムしか知らないのだった。

ダムにも重力式とかアーチ式といった種類があるらしく、私が見知った北東北のダムはいずれも重力式のダムらしい。
一方、この黒部ダムはアーチ式と呼ばれる、アーチ型の止水壁で貯水しているタイプなのだという。
美しいアーチ型の巨大の堰堤から流れ落ちる放水が見所とのことで、どうやら私がこれまでに知るダムとはスケールも作りも見所もまるで違うらしい。

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黒部ダム駅とレストハウス、展望台などの建物は、まるで赤沢岳の側面にへばりつく、巨大遺跡のように見える。

こんな険しい峡谷にダムを造るのにどれだけの苦労と労力を費やしたのか、そういった話がトロリーバス内の放送で聞くことができた。
黒部ダムは、関西電力の電力不足対策として、水力発電のために作られたダムなのだそう。
黒部ダムのことを「くろよん」と呼ぶ人がいるので、何のことかと思っていたが、「黒部川第四発電所」のダムということで、「くろよん」と呼ばれるらしい。

世紀の大事業ということで、とても過酷な労働環境の中で作られた黒部ダム。
現在、立山黒部アルペンルートとして使われている交通ルートのほとんどは、この黒部ダム建設のための資材運搬用のルートが、ダム完成後に一般開放されたものなのだという。

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夏から秋にかけての観光期間は、高さ186メートルを誇る堰堤から観光放水が行われており、昼間は大迫力の放水を見ることができる。
黒部ダムの"日本一"とは、この186メートルと言う高さにあるのだそうだ。(貯水量ではない)

その高さから、水煙が上がるほど激しく流れ落ちる放水は、絶好の快晴の下、峡谷に綺麗なアーチ型の虹を渡していた。
こんな山奥で、渓流にかかる虹を見ることができるとは。
この日はうっすらと二本の虹がかかっており、虹が渡る峡谷の姿がとても美しかった。

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高い堰堤の上は歩道になっており、トロリーバスの黒部ダム駅から、次のケーブルカーの乗り場である黒部湖駅へ、その堰堤を歩いて渡ることになる。

左手には洋々と広がる黒部湖が、険しい北アルプスの山脈の稜線をそのまま切り取ったかのような形で水を湛えている。
そして右手には、足が竦むような高さでそびえ立つ堰堤から、観光放水の水飛沫が河床からの風で吹き上がり、その飛沫でうっすらと霞んだ虹の向こうに、幽遠な渓谷が続いていく。

こんな人の手が届かぬ山奥に、どうやって作ったのかと思ってしまう巨大な建造物は、なんというか異国の巨大遺跡のように見えた。
マヤやエジプトの遺跡群だって、建設当時はきっとこんなふうなものだったんじゃないだろうか。
何千年か後、人間も滅び、次の文明が栄えたとき、この巨大な建造物が歴史のミステリーの象徴になったりするんじゃないだろうか。
そういうものが繰り返されているとしたらすごいなあと、ちょっとしたロマンを抱くには十分な絶景だった。
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by norlie | 2013-08-23 13:20 | ぷらっと甲信越・北陸
 
天空@立山黒部アルペンルート・室堂平
昨年夏の上高地に続き、今年の夏は立山黒部アルペンルートを抜けてみたいと密かに考えていた。
うまい具合に3連休がとれた土日、山頂の室堂平の天気予報が良好だったこともあり、決行することにした。

立山黒部アルペンルートは、長野と富山を結ぶ山岳交通ルートの総称で、実際にはいくつもの乗り物を乗り継いでいくことになる。
中部山岳国立公園内、つまり北アルプスの一角、立山連峰を通り、最高地点となる室堂は標高 2,450メートルに達する。

これまでの人生で、私が到達したことのある最高地点は、蔵王連峰の御釜、上高地、八甲田山など標高1,500メートル付近。
それらを一気に1,000メートル弱も上回る、人生初の標高2,500メートルへの旅である。
それも交通機関で行けるというのがなんともありがたい。

今回、私は長野側から富山側へ抜けることにした。
出発地点は長野県の扇沢駅。
そこから立山連峰赤沢岳を貫くトンネル内をトロリーバスで移動すると、かの有名な黒部ダムへ辿り着く。
黒部湖から黒部平までケーブルカー、黒部平でロープウェイに乗り換えて、大観峰駅へ。
そして、今度は立山を貫くトロリーバスに乗って、いよいよ最高地点、室堂へ到達する。

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暗いトンネル駅を抜け、階段を上り、扉を開けると、見たこともないような世界が広がっていた。
視界を遮るもののない緑の絨毯。
どこまでも見渡せる広々とした大地。
遠景にしか見たことのなかった3,000メートル級の山がまるで目と鼻の先に見える。

これが標高2,500メートルの世界。
森林限界を超えて、高木が生育しない場所。
ハイマツすらところどころにしかなく、辺り一面が芝生のような高山植物に覆われている。
緑の絨毯には、可愛らしい小さな花々が咲き、ごつごつとした岩が点在する。
波打った大地がどこまでも続いていた。

そして目の前に迫る立山連峰の3つの峰—雄山、大汝山、富士ノ折立—。
山頂部は岩に覆われており、波打つ尾根から下へ這う岩肌が、緑の大地に脈を打っているように見える。
劔岳と並び、日本国内で氷河を有する雄山は、まさに文字通り、雄大な姿だった。

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室堂平には、美しい緑の大地の中に無数の火口湖群が点在している。
その中でも最大の大きさと美しさを誇るのが、みくりが池である。
この日は天気のよさも相俟って、池は綺麗な空を映した紺碧色をしていた。

東京では36℃という猛暑日を記録していたが、ここ室堂平は昼間の最高気温ですら17℃。
春のような陽気はとても過ごしやすく、歩いていても汗をかかない。
濃い緑に覆われた山肌の美しさと、頬に受ける心地いい風に、改めて夏山の素晴らしさを実感した。

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室堂平に生育する高山植物はほとんどが初めて見るものばかりだったが、いくつか見知った花があった。
その中の一つがチングルマである。

八甲田や駒ヶ岳、安比など北東北の山々でもよく見かける小さな花で、名前を知ったのは昨年のこと。
まるですみれのようなサイズなのに、こう見えて草花ではなく小低木の一種だということには驚く。

少しだけ故郷の山を思い出させてくれるチングルマは、いつまでも眺めていたい愛らしさだった。

岩の傍らに咲く青紫色の花は桔梗に似ていて、「こんな高山に桔梗?」と首を傾げた。
看板の説明を読んだところ、どうやら『岩桔梗』という高山植物があるらしい。
黄色い可愛らしい花は名前が分からなかったけれど、家に帰ってきて事典を調べたところ、花や葉っぱ、蕾の感じがどうやらクモマニガナという花に似ているように思う。
漢字では"雲間苦菜"と書かれており、とても納得した。雲間に咲く小さな菊科の花といったところか。

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楽園のような天上の世界に、好きな花を見つけた。それは、ミヤマリンドウ。
青い可愛らしい花は、一見どこにでもありそうなのだけれど、この花には一目でそれと分かる特徴がある。
5つの花びらの間に、先がギザギザした5つの副片を持っており、全体的になんとも繊細で洒落た形をしているのだ。

実際、5つの花びらのように見えるのは、実は1つの花冠が5つに裂けているだけなので、ちゃんとリンドウの形なのである。
そしてその5つの裂片の間に副片があるところも、まさにリンドウである。
その副片のぎざぎざがとても可愛いのがこのミヤマリンドウ。

ふわふわ優しい花をつけるのはコバイケイソウ。見た目の優しさとは裏腹に、毒があるのだそうだ。
シラネニンジンは八甲田でも見たので覚えている。

自然が生み出す造形美は、本当に奥が深く、永遠の謎だと思う。

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立山最高峰の雄山は標高3,003メートル。
荒涼とした岩肌が広がる尾根には、茶色の山荘のような建物が見える。
山荘かと思いきや、実は雄山神社の社務所なのだそうだ。

上高地から遠く眺めて憧れを抱いた3,000メートル級の山々。
その山頂がこんなにも間近に見えるなんて、まるで現実ではないような感動がある。

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雷鳥沢から雄山への登山ルートが見えた。
蛇の道のようにうねった登山道を、よく見ると多くの人達が歩いている。(上の写真の左下部分)
米粒どころか砂の粒のような小さな人達が、畏怖すら感じるこの雄大な山を踏破するために向かっていく。

自然のスケールの壮大さと人間の矮小さを感じることはいうまでもないが、それ以上に人間の小さな一歩一歩の積み重ねがどれだけ大きなものになるのかを、目で見て感じられる風景だった。
自然は大きい。だが一方で、それを踏破できる人間もまたすごいと思う。

立山黒部アルペンルート。その最高地点、室堂平。
どこまでも広がる雄大な山々と、一面遮るもののない大地に無数の高山植物が花を咲かせるその景色は、まさに"天空の楽園"という言葉が自然と頭に浮かぶ。

地上とは違う。街とは違う。人間優位の世界ではない、天上の別世界。
死ぬまでに一度は行きたい場所だと思う。来てみてよかった、心からそう思った。
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by norlie | 2013-08-18 12:44 | ぷらっと甲信越・北陸
 
自転車ぶらり、散歩道@長野・安曇野
穂高駅を降りて、まず向かったのは蕎麦屋だった。
歩いて行ける範囲で美味しそうな蕎麦屋ということで"一休庵"というお店でお蕎麦を頂く。

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信州のお蕎麦は本当に美味しくて、期待していてもいつも期待以上なのが嬉しい。
この一休庵のお蕎麦も、冷たく締められ、しっかりコシがあって、でもばさばさしていなくて感激の美味しさ。
他の土地で食べるお蕎麦とは一線を画す美味しさで、いつも不思議でたまらない。
何が違うのだろう? この美味しさの理由を、論理的に知りたいといつも思うのだけれどわからない。
自分が好むお蕎麦のタイプが明らかにここにあるんだよなあ。

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腹ごしらえの後は、駅前で自転車を借りて大王わさび農園へ向かう。

途中、穂高神社に立ち寄って参拝。
実は、穂高神社の奥宮は上高地の明神岳の麓にある。そう、夏、秋ともに訪れた明神池その場所である。
明神池は、他ならない穂高神社の奥宮神域内にあるのだ。

夏に奥宮を訪れていた私は、そちらで御朱印を頂いた際に見たパンフレットで、その本宮が安曇野にあると知った。
今回の旅では是非訪れたいと思っていた。

背の高い針葉樹に囲まれた本宮に、樹々の合間から光が射す。
澄んだ空気とひんやりした気温が心地いい。
建て替えられたばかりと思しき本殿はとても立派で、この雰囲気は好きだなあと思った。

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神社で御朱印を頂いた後、再び自転車にまたがってわさび農場方面へ。
すると途中、なんだか見たことのある風景に出会い、自転車を降りることにした。

この2つの下駄。確かつい最近テレビで見た。
この下駄を履くと願いが叶うんじゃなかったっけ?
信州七福神の一つ、吉祥山東光寺。その立派な門には仁王様と、仁王様の下駄がある。

大きく足を開いて、下駄の上に乗っかって、ばんざーいとする。
楽しくなって万歳しているうちに、願い事をするのを忘れたのだった。

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テレビで出ていた場所の割には、他に人の気配もなく、なんだか学校帰りに素敵な寺を見つけたような気持ちになって、お寺のお庭を散策。
よく手入れされた庭には秋の草花がさわさわと揺れて、静かながら生き物の気配がきちんとする。
そして、お寺で暮らす人の気配も。

その土地に馴染んだ、お隣様のようなお寺。こういう場所は大好きです。

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東光寺を出ると、突然広大な田園風景が広がった。
この田圃の向こうに、わさび農場がある。
わさび農場に寄った後は、川沿いを道祖神巡りで帰ってくる予定。

安曇野は日本で最も道祖神の数が多い場所なのだそう。
ところで道祖神って何?
無知な私は立ち止まって考える。道の神様だから、道のあちこちで旅人を導いてくれる神様なのかな?
帰ってきて調べてみたら、どちらかというとあちこちにある道祖神が結界となって、村を守ってくれる存在なのだそうな。

安曇野の田園風景のすばらしさ。
それは、この場所を愛する地元の方々と、点在する道祖神たちに守られているからなのかもしれない。
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by norlie | 2012-11-10 08:01 | ぷらっと甲信越・北陸
 
月を求める@長野・安曇野
山葵には綺麗な水と良い土壌が必須と言われる。
その栽培条件は非常に厳しく、水山葵の栽培場所はとても限られている。
その山葵の産地として知られるのが長野県安曇野市。
NHKの朝の連続テレビ小説『おひさま』の舞台で、一躍知名度が上がったのも記憶に新しい。

夏に長野を訪れた際には、安曇野へ来る時間がなかったので、今回は一日目を安曇野に充てることにした。
駅前で自転車をレンタルし、最初に向かったのが大王わさび農場。
日本アルプスを水源とする豊富な湧水で山葵を育てている一大農園で、無料で見学することができる。

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園内全域を、溜め息が出るほど透き通った、冷たい湧水が流れてゆく。
緑色の山葵が、敷き詰められた石の上で瑞々しく息をする。

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大王わさび農場には、かの黒澤明監督が1989年『夢』という映画を撮影した水車小屋がある。
涼やかな流水音が満ちた小川の底では、鮮やかな緑の梅花藻がゆうらゆうらと揺れて、その流れで古い焦茶色の水車がまわる。
とても牧歌的な風景で、注ぐ光も優しい。その緑の明るさや涼やかさは安曇野ならではなんだろう。
できればいつか春の雪解け水溢れる安曇野にも来てみたいな。

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わさび園ではいくつかつまみ食いを。
途中、「焼きたての岩魚があります」という看板を見つけて、順路も忘れ、ひたすらそっちを目指して直進、直進。
やがて、"いわな茶屋"というところに到着したので、早速岩魚の塩焼きを注文した。
いつも食べているような串に刺さった塩焼きを予想していたので、上品に紙皿に乗っかってきて、少し襟を正す。
焼きたて、あっつあつの岩魚を頬張ると、うん、美味しい。ふうふう言いながら、いつもより小さくつまんで美味しく頂いた。

そして、帰り際にはわさびコロッケを。
いつのまにか外で買い食いするときは、いつも自然にコロッケにしてしまうようになった。
昔はそうでもなかったのだけれど、おそらく鎌倉でいつもコロッケを買い食いする習慣が身に付いてしまったのだろう。
外で買い食いするコロッケの美味しさはたまらない。

カリッとした衣とほくほくのジャガイモがとてもおいしかった。
だけど少し欲を言うと、もう少し山葵を効かせてほしかったかもしれない。(わさび農場なので)
この翌日、上高地の河童橋で、河童のイラストが印字された小ぶりのわさびコロッケを頂いたのだけれど、正直そちらのコロッケが本当に美味しく・・・。
よ〜く効いた山葵が、効きすぎず、隠れすぎず、コロッケの味とのバランスが非常に良かったのだった。
わさびコロッケは上高地の河童橋に軍配です。

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わさび農園以外にも色々行きたかったのだけれど、のんびり歩きすぎたのか、色々食べ過ぎたのか、わさび農園だけで夕暮れになってしまったのだった。

閉園の音楽に背中を押され、惜しむように園外へ出ると、遠く山々の稜線が夕焼け空にくっきりと浮かび上がっていた。
ああ、この風景はあれと同じだ。そう思った。
昨年訪れた山形の上山。その温泉宿の裏手の田圃から見た稜線に似ている。
私にとっては馴染みの薄い、山里の夕暮れ。

こんな場所で育ったらどんな子供時代になっただろう。
海辺の町育ちであることに不満を抱いたことはない。
だけどこの真逆の美しさに心がぐらりと揺れるのも確か。

"Black wants white. White wants black."
黒い人は白を、白い人は黒を、求めるものね。

いつか台湾で出会ったオーストラリア人の老婦人が言っていた言葉を思い出す。
それを"cry for the moon"(ないものねだり)と言う。
こういうノスタルジックな"ないものねだり"なら、悪くない。

"cry for the moon"
この山里で過ごす青春時代は、きっと私にとっては月に等しい。
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by norlie | 2012-11-03 08:11 | ぷらっと甲信越・北陸
 
黄金色の世界へ@長野・上高地
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紅葉を"黄葉"と書いたことはなかったけれど、上高地の秋はこの言葉で表すのが相応しい。
涼しい風が吹き始め、日に日に秋めいてくる首都圏とは異なり、ここはもう晩秋の気配が漂う。

「また、来ました」
明神岳に向かってしみじみ一礼。

8月初めに訪れた松本・上高地。
まさか2ヶ月と経たないうちに再び来ることになろうとは。
(そう決めたのは他ならない私自身だけれども)

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八甲田や八幡平といった北東北の山々と、ほぼ同時期に色付くのが日本アルプスだと知ったのは最近のこと。
北国では10月後半になると山々の紅葉が終わり、色付きが野や里へ駆け下りる。
そして、標高約1500メートルの上高地はそれとほとんど同時期に黄葉が始まるのだそう。

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岩肌露にそびえ立つ穂高連峰。
白い河原がとても美しい。
つい先日この景色を見たばかりだったのに、その免疫はどこへやら。
やっぱり何度見ても、初めて見たときのように感動する光景だと思う。

3000メートル級の山々に囲まれた上高地はいわゆる盆地に相当する。ところがその標高は、夏に私が訪れた八甲田山の最高峰・赤倉岳と同等。(赤倉岳のほうが数十メートル高いくらい)
田茂萢岳に至っては、200メートルくらい低い。
そう考えるといつも溜め息が出てしまう。今立っているこの場所は、あの山頂と同じ高さだなんて。

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上高地の黄葉の中心となるのがこのカラマツという木。
針葉樹とは皆常緑なのだと思っていた私は、黄色に染まって落葉するマツがあるなんて初めて知った。
黄金色と言えば銀杏だとばかり思っていたけれど、今度からそのカテゴリにカラマツも入れようと思う。
高く濃い、秋の青空に黄金色がよく映えて、ひらひらと落ちてくる針のような葉がきらきらと光を反射する。
こんな黄葉の風景を見たのは初めてだ。

このカラマツは、天然では宮城・蔵王周辺から関東、中部の高山帯にのみ分布する木だとか。
夏に訪れたとき、シラビソと並んで「北東北と植生が違う」と実感させられた木。

上高地を訪れる度になぜかアメリカ北部の風景を思い出す。
その原因がこのカラマツやシラビソのような亜高山帯の針葉樹林の豊富さにあるように思う。
それから岩肌を見せる日本アルプスの山々。
カナダやアメリカのロッキー山脈付近を少しだけ思い出してしまうなあ。

そういえば、カナディアンロッキーに、"Larch Valley"というトレイルがある。
レイク・ルイーズのことを調べていたときに知ったのだけれど、そこの見事な黄葉もまたカラマツによるものらしい。
"Larch"とはカラマツのことだったのだ。

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この場所、田代池は前回訪れなかった場所。
大正池から河童橋に向かう道を、少し逸れたところにあるのだけれど、気づかずにそのままスルーしてしまったのだった。
夏の来訪後、そういえば池が一つなかったなあ・・・と気になっていたのだけれど、秋の再訪で見つけることができた。

点々と立つカラマツの間を緩やかな流れが蛇行する風景。
午前中に訪れると、正面の山から降り注ぐ光が遠景を白く暈して、とても幻想的だった。
公式サイトでは『箱庭のような風景』と称されていたけれど、なるほど確かに、黄金色の針葉樹と小川、その中を泳ぐ岩魚達の景色は、上高地の神様が作ったささやかな庭園のようにも思えた。

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黄葉中心の上高地にも、ところどころに真っ赤な楓が顔をのぞかせていた。
中には黄と赤の混合色のような葉を持つものも。
周囲のカラマツに感化されたかのよう。


さて、ここからは前回8月に訪れたときに撮った風景と、ほぼ同じ景色を再び写真におさめたので、2つの季節を比べてみようと思う。意識して撮ったわけではないので、少し角度などがずれているのはご愛嬌。
活き活きと輝くような緑の景色が、たった2ヶ月で黄金色の景色に変わったのだと実感。
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上が8月初め、下が10月下旬の景色。河童橋から臨む穂高連峰。
並べてみると分かるのだけれど、木々の色だけではなく、水の色まで違うことに驚いた。
夏は、清冽な梓川が周囲の濃緑を映して、より青く見えている。
一方、秋の梓川もまた環境色を反映して、今度は薄褐色の川になっている。

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次は、田代湿原。
夏は柔らかな黄緑色だった湿原は、すっかり冬芝色に。
だけどそのかわり、周囲の木々の褐葉が美しい。
遠くそびえる穂高の山々も、夏よりずっと岩肌が露出して見えるみたい。

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こちらは明神池。
黄葉が美しいけれど、こちらは夏の景色のほうが好きかもしれない。
すっくと立つ樹木の濃い緑と、褐色の池の対比が美しいから。

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明神橋と明神岳。どちらも圧巻の風景だと思う。
明神岳の賑やかな紅葉はパッチワークみたいで素敵だなあ。
Stanley Horowitzという人物の言葉"Winter is an etching, spring a watercolor, summer an oil painting and autumn a mosaic of them all."(冬はエッチング、春は水彩、夏は油絵、秋はそれらすべてのモザイクだ)を思い出した。
この言葉がずっと前から好きなのだけれど、Stanley Horowitz氏が何者なのか私は知らない。ずっと知りたいと思っている。

天気一つ、時期一つで、景色はまるっきり違ったものになる。
だから自分は同じ場所を何度も訪れるのが好きなんだと思う。
たくさんの場所を広く浅く知るよりも、一つの場所の多面性を深く知りたいと思う。
そういう考え方は、自分の人間関係にも共通しているのかもしれない。

再びの場所、上高地。
三度目もまた、そう遠い話ではないかもしれません。
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by norlie | 2012-10-28 21:38 | ぷらっと甲信越・北陸
 
ここは信州、城のまち@長野・松本
上高地からバスで松本へ戻って、まず最初に向かったのは松本城。

実は私は、城という類いの物をあまり見たことがない。
国内の名城と言えば、姫路、名古屋、熊本、そしてこの松本などがあると思うが、私が見たことがあるのは小田原城と弘前城。天守閣だけの小さな建物だ。
だから、松本へ行く前に松本城の写真を見たときは、少なからず期待した。
なんだか大きそう。綺麗そう・・・。

そして、いざ現地で目にすると・・・。

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かっこいい〜!!
結構な期待感だったにも関わらず、それ以上の大きさ、美しさ、かっこよさ。
なんと、城ってこんなにかっこよかったのか!
お堀が映す城と空の美しいこと。

私は日本史、ましてや城などにはあまり詳しくなく、友人に趣味=日本の城巡りという子がいるのだけれど、「意外と渋い趣味だね」と、少し冷ややかな目でいつも見つめておりました。(ごめんね)
でも、こうやって見ると、なんて綺麗で迫力があるんだろう。
フランスの城のような絢爛豪華な華やかさや繊細さではない。
イタリアの中世の動乱を生き延びてきた埃っぽさ、重厚さを感じさせるようなものとも違う。
なんというかとても実直で、慎ましやかで、地に足が着いている感じがする。

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松本城公園の日陰のベンチに座って、真正面に松本城を捉える。

ランドマークがある街が好きだ。
これを見れば、ああどこそこだとわかる場所。それを見れば、ああ帰ってきたと実感できるもの。
そして時には方角を知る手がかりになるもの。
横浜であればランドマークタワーが私にとってのそれだ。東京なら東京タワー、最近だとスカイツリー。
街のシンボルでもあり、街を守る存在でもあるもの。
自分がそれを見上げるとき、いつだってどこかで誰かが同じようにそれを見上げているもの。

そういう物がある街は、いつのまにか心がそれに寄り添っている。
そしてそのランドマークもまた、街に寄り添っている。

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長野と言えば蕎麦。
私は、蕎麦よりどちらかというとうどんが好きだと思っているのだけれど、それがふと揺らぎそうになるときがある。
一つは神田の藪蕎麦で食すとき。そしてもう一つは、ここ長野の蕎麦を食べるとき。
細めの麺が汁に良く絡む。細いのに、噛むと蕎麦の風味がじんわり口の中に広がってとても美味しい。
そして、最後はそば湯。啜った後、口からほっこり出てくる湯気は、じわり温か。喉を通った熱いそば湯が、とろりとしながら喉からお腹へ伝っていって、身体の中から優しい熱が沸く。

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松本城から中町通りのほうへゆっくりと散歩する。
懐かしい、下町風情溢れる縄手通りを通って歩く。祭りの準備で皆どこか浮き足立っているのがわかる。

途中、四柱神社では、子供達が集まって鬼ごっこのようなことをしていた。
なんて平和な、昭和の風景。神社で鬼ごっこなんて、子供の頃は憧れだったよ。(私の家の近くにはそういう場所がなくて、いつも野原や公園だった)

今日は、松本ぼんぼんのお祭り。街中に、ピンク色の提灯が点してあって、なんだか良いときに来たなあと思うことしきり。

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縄手通りを抜けて、風情溢れる蔵通り、中町へ。
ここへ来て、私はなぜかとても自分が蔵に惹かれていることに気づく。
そういえば子供の頃から、蔵という物に憧れていた。うちにはもちろんなかったが、近所の友人の家にあった蔵は、どこか内を見せない秘密めいた魅力があった。
色々な物が雑多に詰め込まれている蔵。窓が少なく、中は真っ暗で、重厚な扉を開けるとそこには異世界が広がる。
信じられないくらいずっと昔の遺産が眠っているのではないか?(それすなわちタイムスリップ!)
どこか異界へ繋がる道があるのではないか?(それすなわちファンタジー!)
・・・といったような妄想をいくらでも膨らますことができる蔵。

誰かにとってとるに足らない何か、他の誰かにとっては宝物のように大切な何かがある(かもしれない)、不思議な場所。
蔵に潜むものはいつだって私を魅了し続けている。

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中町通りを歩いているとき、なんだかとても涼しげな心安らぐ気配に誘われて、一つのカフェにふらりと入った。蔵シック館という喫茶店だ。
高い天井が、ここが蔵の中であることを教えてくれる。
焦げ茶色の艶のある家具調度が、シックでとても落ち着く。自然と、ふうーと深い息が出る。

あら、これはいいんじゃない?
旅の終わりの場所にぴったり。弾丸トラベラーのように始まったこの旅の1ページ1ページを振り返るのに、この静けさと涼やかさはぴったりだ。

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普段まず頼むことのないアイスコーヒーが、なんだか今は無性に飲みたい。
カランという氷の音と、濃い透き通ったコーヒーの水色。煙るような豆の香りと、身体をひんやりさせてくれる抜けるような苦み。
たまには普段飲まないものを飲むのもまた旅の醍醐味。

初めて訪れた松本、上高地。
たった一日だけれど、それは普段の旅よりもずっと密度が濃いものになった。
それでいて、どの旅よりものんびりと何もしない時間を過ごすことが多かったことにも驚く。
ほとんど寝ずの旅だったが、身体には染み入るような心地よい疲れ。

松本も上高地も、大好きな場所になった。
空の広さ、雄大な山々の稜線、穏やかでのんびりとした空気に、滋味溢れる美味しい食べ物。
またきっと、ここを訪れよう。

喫茶店を出ると、街はすっかり祭り一色になっていた。
駅までの道を歩きながら、いつのまにかすっかり耳に馴染んで、メロディーも歌詞も覚えてしまった祭りの歌。
ぼんぼん、松本ぼんぼんぼん。
どっこいじんじょ、どっこじんじょ。
わーい、わーい。
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by norlie | 2012-08-21 10:03 | ぷらっと甲信越・北陸