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秋の読書
今年の11月は心なしかいつもより雨の日が多い。
そんな日はぬくぬくブランケットにくるまって、家で読書をするのが一番いい。
この秋読んだ、あるいは読んでいる、6冊の感想を少しずつ。

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『イギリス南西部 至福のクリームティーの旅 / Southwest England: A Journey of Blissful Cream Teas』
小嶋いず美・著

美味しそうな紅茶とスコーンとクロテッドクリームの写真が満載のイギリス南西部旅行記。
ティーインストラクターでもある著者がイギリス南西部、サマセット州、デヴォン州、コーンウォール州の3州を巡る。
その目的は英国南西部の"クリームティー"。
クリームティーというのは著者曰く、「スコーン2個(又は超巨大なスコーン1個)とイチゴジャム、それにクロテッドクリームというバニラ色のクリームとポットサービスの紅茶が楽しめるイギリスの人気のメニュー」とのこと。
クロテッドクリームを製造しているファーム(牧場)や、個人が経営するティールームやティーハウス、B&B、そして貴族の邸宅マナーハウスまで、実に様々なクリームティーを求めて南西へと向かう旅。
その途中では、ハリーポッターのホグワーツ魔法学校の撮影が行われたレイコック・アビーや、最西端のリゾート地セント・アイヴィスなど、観光地にも立ち寄っている。

雑誌『RSVP』のティールーム特集や砂古玉緒さんのスコーンレシピの本など、スコーンと紅茶の本がもともと大好きなのだが、この一冊は旅行記ということもあって旅心もくすぐられる。
とにもかくにも美味しそうなスコーンと紅茶の写真が満載。
どの写真も似ているようで、お皿や盛りつけ、スコーンの形やジャムなどにオリジナリティーが見え隠れする。
そしてほっこりするような各地のエピソード。ティールームを営む人々の人生が垣間見える。
個人的に行ってみたい場所の一つであるセント・アイヴィスが載っていたのも嬉しかった。
この本を読むときは、湯気の立ち上るダージリンティー、熱々のスコーンとクリームを目の前に置いておきたい。
そうすると、まさに"至福"の読書時間になること間違いなし。
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『すてきなあなたに 02 スタインベルグの鏡』
大橋
鎮子・著

著者は「暮らしの手帖」を創刊した人物の一人・大橋鎮子さん。
1969年から同雑誌で連載された大橋さんのエッセイ集だ。
既に1巻の『ポットに一つ あなたに一つ』と4巻の『パリの手袋』を読んでいて、面白かったのでもう一冊に手を伸ばしたのだった。

最近ポケット版として新装されたこの第2巻は、もともとは1975年に刊行された一冊。
1970年代というと私が生まれるよりずっと前に執筆されたものということになるのだけれど、素晴らしいのはいまだに文章が瑞々しいこと。
古さをみじんも感じさせない筆致は、まるで昨日今日書かれたよう。
一つ一つのエッセイは、長さは色々だが、いずれも数分で読み終わるような短さ。

ぱったり会ったともだちは、大きな買いもの袋を二つも下げているのに、その上に、花束をかかえています。
白、黄、レンガ、ピンク、いろとりどりの小菊でした。
「明日から仕事で、関西へ三日ほど行ってくるの。だからちょっと買いものに・・・」この人は、会社勤めで、ときどき、こうやって出張するのですが、それにしても、と花に目をやった私をみて、
「このお花は、るすをするからなの。一人いないと、家のものが、やっぱりなんとなく、さみしい思いをすると思って、いつも家をあけるときは、花だけ新しく生けかえて出るのよ」
と言っていました。その人のいない間、その人のかわりをする花だったのです。
(『身代わりの花』より)

穏やかで優しく、気取らない。ときに深く真摯に世界を見ている、そんな文章で綴られたエッセイ。
そういえば、来年春のNHKの朝の連続テレビ小説『とと姉ちゃん』は、この著者・大橋鎮子さんをモデルにしているのだそう。
連載開始から40年近くたった今もなお、年齢を問わず、多くの女性に愛されるエッセイ集。
大事なものや暮らしの本質は、変わることはないのだと教えてくれるようです。

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』
吉田篤弘・著

吉田篤弘さんの『月舟町シリーズ』と呼ばれている三冊の一つ。
町に越してきた無職の青年オーリィくんが、大家のマダムや、サンドウィッチ店"トロワ"の店主・安藤さんとその息子リツくん、そして謎の女性あおいさんと触れ合う日常を描いた物語。

このシリーズの面白いところは、現実世界の日常を描いているはずなのに、どこかファンタジックな気配が漂うところ。
最初のほうは、通勤電車で毎日一章ずつゆっくりと読み進めていたのだけれど、主人公がスープを作り始めたあたりからは、ページをめくる手が止まらなくなった。
何か大きなことが起こる訳ではなく、かといって、変化のない毎日でもない。
日々少しずつ季節が移り変わるように、登場人物達の関係性が少しずつ変化し、見えなかった事実がわかってくる。そして、よりいっそう心が触れ合う。
まるでファンタジーのように、足が地に着かないふわふわとした夢見心地さがあり、不思議な心持ちで読めた一冊だった。

本の最後に『名なしのスープのつくり方』が載っているのだが、残念なことに私がこの通りに作ってもいまいちあおいさんやオーリィくんのようにじんわり美味しいスープにはならない。
スープの道はなかなかに険しい訳で、そんな私はとりあえずSOUP STOCKのレシピを見ながら、鍋に向かうのでした。

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『東京百景』
又吉直樹・著

一躍時の人になったピース又吉さんのエッセイ。
私はエッセイが好きなので、芥川賞を受賞した作品よりこちらのほうが馴染みやすかった。
又吉さんの目に映った東京の姿が100のエッセイとなって集められた一冊。
高円寺や神保町、恵比寿駅や井の頭公園、隅田川や芝大門など、私も東京生活で縁あって通ったことのある場所が、又吉さんならではの独特かつ緩やかな筆致で綴られている。

その場所のことよりも、その場所で又吉さんの身に起こったこと、又吉さんが感じたことが中心に書かれている。
なんというか、この方の文章は、力が抜けてぼうっとしているようなのにちょっと鋭い。
くすりと笑いが漏れたり、神妙な心持ちになったり、切なさが過ったり、景色が目に浮かんだりする。

ところで、又吉さんの本を読んでいると、又吉さんはご自分でもおっしゃっているとおりしょっちゅう職質されているなあと思う。
別の本『新・四字熟語』にもそれにまつわるエピソードが出てきていたが、本当に"職質達人"だと思う。
又吉さんの職質のエピソードはいつもどこか自虐的な色が混じる。

ようやく交番から解放された時には雨が上がっていて晴れやかな気持ちになった。すると一人の警官が僕に近寄り耳元で、「エスパー伊東さんもここで職質したことがあるんです」と囁いた。知らんがな。その情報をどう消化すれば良いのか解らないまま食べたつけ麺はとても美味しくて救われた。
それにしても地図に生き方まで記されていたら楽なのに。
(『池袋西口の地図』より)

個人的には、又吉さんとお母様のお話『東京タワー』が面白かった。
どれも珠玉のエピソードだけれど、心に響くものはまた人によっても違うんだろうな。
でも文才のある人ってこういう人なんだろうなあって思う、独特の鋭さと旨みがあると思う。

『ぱっちり、朝ごはん』

様々な文筆家のエッセイ作品を集めた文藝書。特徴は"朝ごはん"に関するエピソードを集めているところ。
それがまた本当に豪華で、私がぱっと思い浮かぶ名前だけでも、阿川佐和子さん、角田光代さん、森下典子さん、よしもとばななさん、池波正太郎さん、小林聡美さん、向田邦子さん、吉村昭さん、椎名誠さんなど、こんな詰め合わせがあっていいのだろうかと思う一冊。

様々な作家が描く恋愛小説の詰め合わせは何度か見かけたことがあるけれども、あまりその類いには惹かれない。
どちらかというと日々の生活だったり旅にまつわるエピソードが好きなので、この本は自分にはぴったりだった。

実に千差万別の朝の風景が綴られている。
ハムエッグ、マーマレードとトースト、コーンフレーク、クロワッサン、パンとミルクティーといった洋食の朝ご飯。
納豆、味噌汁、海苔、玉子、焼き魚の和食ご飯。
あるいは、べトナムのフォーや台湾の朝粥など、海外の朝食もある。

場所も様々、年代も様々。
イノダコーヒーの風景もあれば、実家の朝食の風景もある。
つい最近の話もあれば、戦後の話もある。

面白い。三者三様の朝ご飯が詰まっている。
読む場所読むとき読む心地次第で、感じ入るストーリーもまた違う。
この本は『おいしい文藝』シリーズになっていて、他にも数冊が刊行されている。
『ずっしり、あんこ』『ぐつぐつ、お鍋』『ひんやりと甘味』など、まだまだ読んでみたいシリーズである。

『ふだん着のフィンランド』
モニカ・ルーッコネン・著

フィンランドで暮らすモニカ・ルーッコネンさんの暮らしやインテリアが掲載された本。文章と写真が心地いい。
今や多くの人が傾倒する北欧暮らし。私はそんなでもないのだけれど、豊かで厳しい自然と寄り添う北国の暮らしは結構惹かれるものがある。
特にフィンランドは森と湖の国。気温が低く、冬は寒い。
青森生まれの私は、どことなく似た環境にある彼らの暮らしに惹かれ、豊かな北国生活を送る知恵や工夫に感銘を受けた。
それにしても庭の広さ、家の広さ、自然の近さは羨ましい。東京生活ではどれも得難いもの。
普通に暮らすことが一番素敵だというのは、その通りだなあと思う。

今、読んでいるのは角田光代さんの『いつも旅のなか』。
でも年末まで少しずつ忙しくなってくるので、きっと読み終わるのは年末年始になるだろう。
読書は楽しい。とりわけ、何もしなくていい日の読書は、格別だ。

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by norlie | 2015-11-21 17:54 | Books | Comments(2)
 
もしも人生をやりなおせるなら / ナディーン・ステア hondana
書店で久しぶりに絵本を買いました。
タイトルは『もしも人生をやり直せるなら』。
数十年前、アメリカに住む85歳のおばあちゃん、ナディーン・ステアが書いた"If I had my life to live over"という詩を和訳し、可愛らしい絵を添えた本です。

85歳のおばあちゃんが書いた「もしも人生をやり直せるなら、どんなふうに生きたいか」。
ナディーンさんは、作家でもなく、ふつうの平凡な女性だそうです。
詩の中でもこんなふうに書いています。
「ごらんのとおりわたしはごくふつうの人間です。
いつだって、どんなときでも、コツコツまじめに生きてきました。」

「こんどはもっとたくさん失敗したい」「よけいなチカラをぬいて、いつもリラックスして暮らす」「そして、おかしなことをたくさんする」のように、もしも人生をやり直せるならどんなふうに生きたいかが綴られています。
自分に置き換えたとき、どれも共感できるものばかりでした。

ちょっと面白かったのは「好きなだけアイスクリームを食べ、豆ばかり食べるのはよそう」という一文。
ナディーンさんは、健康のために無理して豆を食べてたのでしょうか。詩の中にまで書くほどに。
時代や土地柄もあるのかもしれませんが、そう思ったら、ナディーンさんの率直な気持ちが面白かった。

そんな感じで、ワンセンテンスずつ素敵な挿絵と共に、綴られています。
挿絵も本当に可愛らしく、おっとり優しい、そしてちょっと可愛らしい絵になっていて、素敵です。
また、絵本になっているので、自然と、詩の一編一編をゆっくり味わえること、それがよかったです。
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詩の中に出てくる多くの言葉に共感するのですが、特に好きなのは、
「もうなんでも深刻にうけとめることはやめる」
「きっといまよりも問題は増えるかもしれない。でも、頭の中だけの心配事は減るだろう」
です。わりと心配性で、何でも深刻に考え込んでしまいがちな自分は、色々妄想を膨らませてしまうこともしばしば。
「頭の中だけの心配事は減るだろう」と言う言葉に、そのとおりだなあと思ってしまいました。

これが「30歳の人が書いた」だったら、きっとこんなに共感できない気がします。
なんというか、85歳と言うその年齢ゆえか、この詩に綴られる一つ一つにとてもリアリティーが溢れているような気がしました。
読む側も真摯な気持ちになってしまう。85歳のおばあちゃんから、話を聞くときのように。

毎日、仕事や家事に追われていると、ついつい流されるままの日々を過ごしてしまいがちです。
そんなとき、この本を読むと「私が85歳になったとき、もしも人生をやり直せるならどう生きたいだろう」とふと思いを巡らせます。そうすると気づいたときには、日々の雑事より大切なことを少し思い出せる気がします。
自分の人生で大切にしたいこと。やりたいこと。心を向けたいこと。実現したいこと。

本の最後には、原語(英語)の文章が載っています。
原語を読むと、和訳と異なるニュアンスの文章もたくさんあって、そちらも楽しめました。
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夏は部屋で香を焚くことが多く、香の香りに包まれながら、のんびりソファの上でナディーンさんの文章を読んでとてもリラックスできた気がします。
頑張りすぎないで、心配しすぎないで、深刻にならないで、ただ、人生を楽しめばいいのよ。
そんなナディーンさんからのメッセージを受け取ったような気がします。

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by norlie | 2015-06-28 01:44 | Books | Comments(2)