メルボルンの老婦人@台湾
今回の旅では珍しく自分へのお土産をほとんど買わなかった。
買ったのは、茶葉だけ。台湾桂花烏龍と阿里山茶。
中国茶の茶器はたくさん持っているので、ぐっと我慢した。

お茶をいただきながら、旅の出会いを思い出す。
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太魯閣渓谷へ行くのに、珍しく日帰りツアーへ参加した。
日本の旅行会社ではなく、現地のツアーを申し込んだため、参加者はアメリカ人、オーストラリア人、中国人、日本人…となかなか国際色豊かなメンバだった。

オープンでフレンドリーなアメリカ人。目が合うと必ずスマイルだし、一言二言交わすだけなのに、冗談を交えてくる。
例えば、ごついCanonのカメラを携えて写真をとっていた一人旅のおじさんに、「いい写真はとれた?」と尋ねると、「ああ、もちろん。僕にはPhotoshopがあるからね」とにやりと笑う。そんな感じ。
中国の方は、育ちの良さが窺える、紳士的な人達だった。わからないことを質問すると、「うーん、僕もわからない」と言うのだけれど、数分後には戻ってきて「これはこういうことなんだって」と教えてくれる。わざわざ、他の誰かに聞いてきてくれたのだ。


気さくなメンバの中でも、私が一番おしゃべりを楽しんだ相手が、オーストラリアから来たご婦人。
彼女は、メルボルンから一人でいらっしゃったのだそう。
70近い年齢の女性で、綺麗なプラチナブロンドの髪に、優しいブルーの瞳。リュックを背負って、山道も元気にてくてく闊歩する姿が印象的だった。

この日、私たちが訪れた太魯閣渓谷は曇り空。霧に包まれた渓谷を見て、青空が良かったなあと残念に思った。
そんな中だったので、彼女と私の最初の会話は、ごくありふれた天気の話題。
「素晴らしい景色ですね。でも、晴れの日のほうがいいと思いませんか?」
私が尋ねると、そのご婦人は少し考えてから答えた。
「どうかしら? 太陽の光は、この場所には眩しすぎる(too bright)と思うわ。霧があって、霞んでいたほうが似合うと思う」
"眩しすぎる"と言われて、太陽の光にきらきら輝く奇岩怪石を思い浮かべたら、確かにイメージが少し違うかもと思った。
「その方が神秘的ですね」と言いたくて、"mysterious"と"mythical"と呟いてから、" I don't know what to say in English..."と困っていたら、"You mean 'mystic'?"と助けてくれた。
「そうね、私も本当に(totally)そう思うわ」
と、彼女はにっこりした。

それから、観光客向けに台湾産の宝石やらアクセサリやらを売る土産物店で、特に買うものもなく、暇を持て余していたらおしゃべりに誘われた。
二人で大理石の椅子に腰掛ける。

「こういうお土産を買うのはアメリカ人よね」
茶目っ気たっぷりの目で言う。視線の先では、アメリカ人の男性二人が、アクセサリを購入していた。
「彼らは、奥さんや娘さんに買うのよ」
「ご家族思いなんですね(They really love their families.)」
「あなたは買わないの? アクセサリは嫌い?」
「いいえ、そんなことはないんですけど。自分のアクセサリはほとんど買わないし、持っていないんです」
「でも、そのネックレス、素敵な色だわ」
彼女は私のネックレスを指して言った。このとき私は、赤いブローチのようなネックレスをしていた。
「これは、母がくれたものなんです。私が持っているネックレスは、ほとんど家族や友人達からもらったものばかりで…。ストーリーのあるものが好きなの。ただのネックレスじゃなく」
素敵ね(lovely)、と彼女が相槌を打つ。
「それがあなたの、物の愛し方なのね。あるいは、物を愛する理由。(That is your way to love something. Or the reason why you love a thing.)」
物の愛し方。そう言われると、照れくさいけれど嬉しい。胸に手を当てて、感激したと言うジェスチャをして、ありがとうと言った。
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「あのネックレスは、あなたによく似合うと思います」
私が、翡翠のネックレスを指して言った。そう?と聞き返される。
「あなたの髪はとても綺麗なプラチナブロンドだから、翡翠色(jade green)は、とても良く似合うと思います」
私がそう言うと、彼女の方が少し照れくさそうに肩をすくめた。そしてその後、本当に嬉しそうな笑顔で、自分の髪をつまみながら少し自慢げに言った。
「この髪は染めていないのよ(natural)」
「本当に?羨ましい!」
このとき、思わず直訳して"I envy you"と言ってしまった。ネガティブな意味にとられなかったか、"lucky"と言い直そうかと、少し不安だったけれど、彼女は前後の会話や私の表情から、私が本当にそう思っているんだと感じてくれたようだった。
「ありがとう。あなたの髪も素敵よ」
「私の髪の色は、地毛じゃないんです。染めているの。本当は真っ黒なんですよ。あなたの髪は本当に綺麗だから、とても羨ましい(You're so lucky!)」
彼女は、また本当に嬉しそうに微笑んだ。ずっと年上であるはずなのに、少女みたいな愛らしい笑顔で、私は思わず見惚れてしまった。
「白い人は黒を、黒い人は白を求めるものね(The white wants black. The black wants white.)」

その後も、メルボルンの話を聞いたり、彼女のこれまでの旅の話を聞いたりした。
私はメルボルンへ行ったことがないので、「どんなところか?」と聞いたら、「そうね、それほどいい場所ではないわ。海が近くて、マリンスポーツが好きな人にとっては最高の街だけれど、私にとっては別にね」と言っていた。
「でも、オーストラリアに留学した友人が言っていました。メルボルンは本当に美しい建物が多くて、人も本当に優しくてピースフルだって」
私がそう言うと、
「そうね、人はとても優しいわ。建物も歴史があって綺麗よ。あら、あなたの言う通り、確かにいい街だわ。私はいい場所に住んでいるのね」
と笑う。素直な人だなあと思った。
そんな彼女は、台湾だけではなく、たくさんの国を旅しているのだそう。
日本にも来たことがあるそうで、東京、京都、奈良、大阪などへ行ったと教えてくれた。
それから、日本で、いかに親切にされたか、素晴らしい場所だったかを話してくれた。途中で時間がきて、バスに戻らなければならなくて、会話が一旦中断したのだけれど、バスに戻ってからも、わざわざ私の席まで来て話してくれた。

日本は本当に素晴らしい国よ。
建物の雰囲気もすばらしくて、とても清潔で美しい。
人々は本当に親切で、礼儀正しくて、大好きになったわ。
本当に感動したの(touched my heart)
絶対にまた行きたいわ(I do want to visit your country again)

思わず手を握らんばかりの勢いで言われて、相槌を打つ間もなく、私はひたすらうんうんと頷いた。
「ありがとう、そう思ってくださってとても嬉しい」と伝えると、満足そうに自分の席に戻っていった。

ツアーの最後、駅の人ごみの中、別れ際に「あなたのおかげで本当に楽しい時間を過ごせました。ありがとうございます」と伝えた。
彼女は私の手を握って言った。
「ありがとう。私もとても楽しかった。だから私は日本が大好きなのよ(thay's why I do love Japan)」

それからツアーコンダクターに急かされるままに、駅で別れた。
住所の一つでも渡せばよかった。そう気づいたのは、帰国してからだった。
年を取っても、世界中を元気に旅する老婦人。
私も、彼女みたいに年を取りたいなあ。
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by norlie | 2011-07-31 14:23 | 台湾旅
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