クリスマスの後に
ここ数年、クリスマスが過ぎて年が変わっても、しばらくはツリーを片付けないようになった。
こたつの上に飾った小さな木製のクリスマスツリーは、大学生のころに母がくれたもの。 隣には、クリスマス仕様のエルモが座っている。エルモには赤と緑がとても似合う。 この時期、壁にかけた鏡の下には造花のポインセチアを置く。 お茶を淹れる棚の上にはリースとスノーマンの飾り物。 台所には、"MERRY CHRISTMAS"と書かれた黒板を持ったトナカイが誇らしげに壁にかかっている。 何年か前、1月初めに、ロサンゼルスのオレンジ・カウンティーに住む母の友人の家を訪ねたことがある。 2階まで吹き抜けの玄関ホールには大きな暖炉があって、その前には私の身長よりも大きなツリーが飾ってあった。アメリカの映画でよく見るような大きなもみの木に、センスの良い白や銀色のオーナメントが輝いて、日本から来た私たちを迎えてくれた。 「頑張って飾ったツリーだから、クリスマスが終わってもしばらく片付けないのよ」 そうですよね。こんなに綺麗なツリーなのに、クリスマスが終わったからってあっという間に模様替えじゃ少し寂しい。 デパートのショーウィンドウのように、慌しくイベントごとに付いていかずとも良いんだ、と心から思った出来事だった。 昨年のクリスマスは、山手の西洋館を訪れた。 毎年12月は、各館がそれぞれいずれかの国のクリスマスをテーマとした飾り付けをしていて、観て歩くだけでとても楽しい。 中でも、ベーリック・ホールの「エストニアのクリスマス」と、エリスマン邸の「スウェーデンのクリスマス」は雰囲気が素晴らしくて、いつまでも座っていたい心地でいっぱい。 いつもは整然とした棚や暖炉に、ささやかに飾ってあるクリスマスのオーナメントやサンタクロースが、小さな物語を形作っていて、一つ一つの物語に目を凝らし、耳を澄ます。 クリスマスに観たい映画といえば、昔は『ホーム・アローン』だった。 特にシリーズ2作目が好きで、弟と一緒にいつもお腹を抱えて笑う映画。 マコーレー・カルキン演じるケヴィンの賢さに、ふむふむと憧れながら、鳩のホームレスおばさんに優しさのおすそ分けをするラストのシーンでいつもほっこりする。クリスマスは、与える優しさを持つ日。 大学生の頃は、メグ・ライアンとトム・ハンクスの『You've Got Mail』を毎年観ていた。 当時は、ヒロインのキャスリーンが愛読書だと語る『高慢と偏見』も名前しか知らなかったし、大好きだと言っていたジョニ・ミッチェルの曲も聴いたことがなかった。 映画自体は何度も見ているけれど、物語に出てくる『高慢と偏見』とジョニ・ミッチェルのことは、ずっと馴染みのない外国の本と歌だと思っていたのを覚えている。 そんな私も三十代を目前に控え、二十代最後のクリスマス。 久しぶりに『You've Got Mail』を観て、ああ、と思った。 今は『高慢と偏見』がどんなストーリーか知っている。ジェーン・オースティンにはずっと興味がなかったのだけれど、昨年、偶然観た、イギリスBBC製作のロモーラ・ガライ主演の『エマ』が面白くて、他の作品も見てみることにした。キーラ・ナイトレー主演の『高慢と偏見』を観た。 結局、ジェーン・オースティンの作品では、やはり表情豊かで少しコミカルな『エマ』が気に入ったのだけれど、『高慢と偏見』の映像の美しさもなかなか良かった。 そんなわけで、今は、ヒロイン・キャスリーンの語るダーシーとエリザベスの話も理解できる。 そして、ジョニ・ミッチェル。 ずっと知らなかったけれど、私は高校のときからこの人の歌をずっと聴いていた。 昔観ていたドラマ『Ally McBeal』の中で、クリスマスにロバート・ダウニー・Jrが歌った曲"River"。 それからこの曲が好きになって、毎年聴くようになった。昔は、ロバート・ダウニー・Jrが歌う"River"を聴いていたけれど、その後、サラ・マクラクランが歌うバージョンを毎年聴くようになって、今年は『Glee』のリー・ミシェルが歌う"River"を聴きながら12月を過ごした。 少し寂しげな失恋の歌だけれど、"It's coming on Christmas. They're cutting down trees. They're putting up reindeer and singing songs of joy and peace"という、クリスマス感たっぷりの歌詞がいいと思う。 ああ、クリスマスが来たって思う。 そうやって聴いていた"River"の曲こそ、ジョニ・ミッチェル曲だったのだと、恥ずかしながら今日知った。 『You've Got Mail』の中で、キャスリーンが好きだといった曲こそ、"River"だった。 そんなふうに、昔観ていた映画をもう一度観て、まるで予言されていたかのような偶然に、感嘆する。 シンクロニシティという言葉があるけれど、こういうとき、私はそれを信じそうになる。 ベーリック・ホール。エストニアのクリスマス。 ベッドの上に可愛らしい食器が置かれてあって、一目ぼれしそうになった。 冬にベッドの上で飲むミルクティーは最高においしい。このティーセットならきっと美味しさも格別。 弱い太陽の光がいつもより低い角度で優しく部屋の中まで入り込む。鈍色の冬はベッドが心地いい季節でもある。 クリスマスのディナーは、栗原はるみさんのカフェ『ゆとりの空間』で過ごした。 デザートに頂いたフローズンヨーグルトは、まるで雪を纏ったもみの木のようなデザインで、ガラスの中の美味しい雪景色に胸が高鳴った。 これはクリスマス限定だったようだけど、また是非食べたい一品。来年もやってくれないだろうか。 今日、クリスマスの飾り付けを外して、丁寧にクローゼットにしまった。 また1年後に会おうね、と約束を交わしながら、オーナメントを一つ一つ箱に仕舞う。 クリスマスの余韻を片付けて、少しだけ部屋が次の季節へ向かう。 2月に入り、伊豆の河津桜の便りがちらほら。横浜ではどこからともなく春の足音が聞こえてくるような、そんな予感を頂く季節。 外も部屋もまだ寒い。こたつの中で苺を頬張りながら、春の足音に静かに耳を澄ます。その幸せなひととき。
by norlie
| 2012-02-05 23:39
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