朝、大正池にて@長野・上高地
土曜に祭りを控えた松本には宿らしい宿はほとんど残っておらず、夜、到着2時間前に確保できたのは駅近くの安いビジネスホテルだった。
どうせ翌朝6時には上高地へ向かうつもりだったので、寝られれば良いと思ったのだが、宿は予想以上に居心地が悪い。ごうごうと騒音を立てて乾いた空気を出すエアコンと煙草の臭いのせいで、ふと時計を見ると、結局一睡もできないまま夜中の3時半を指していた。

参ったなあと、ブラインドを上げて外を眺めると、月明かりの下、高い山々の稜線がくっきりと見えた。憎いことに、絶好の景色で、遮る建物もない。

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稜線の上、星がいくつか瞬いている。見える星の数はそうでもないが、横浜より空気が澄んでいて見やすい。
特にやる事もなく、眠れもしないので、星を眺め続けた。
じっと眺めていて、ふと気づいた。
いくつかの星は、ずっと見ているときらきらと瞬くように明滅する。だけど2つの明るい星だけは、安定した光をずっと放っている。

  —ああ、そうか、惑星か。

一つは明けの明星、金星に間違いない。もう一つは木星か火星あたりだろう。
そして、ふと隣を見ると、山の稜線からゆっくりと見慣れた三つ星が上がってくるのが見えた。
あれはオリオン。大好きな冬の星座がこんな時期に見られるなんて。真夏のオリオン。

寝不足なのに心は晴れやかで、背中を押されたように身支度を始めた。
朝6時の電車で行こうと思っていたけれど、確かその前に始発があるのを時刻表で見た。少し早いけれど、どうせ眠れないなら出かけよう。

そうして、早朝4時45分、上高地線の始発に乗車。
時間が時間なので、車内には自分のような軽装のハイキング客はいなかった。そのかわり、重厚な装備に身を包んだ登山客で座席が埋まっていた。

* * * * *

新島々で列車を降りて、バスへ乗り換える。
そして朝6時15分頃、念願の上高地へ到着した。
大正池のバス停で降りると、ひんやりとした山の空気が肌を刺す。

朝は寒いだろうと思って長袖を持ってきたが、それでも寒い。
とはいえ、どうにもできないので、ストールを巻きながら、大正池へ降りていった。
目に飛び込んできたのは、山。そしてそれを映す鏡のような水面。

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空はとっくに明るい。雲一つない蒼天に、けれど太陽はまだない。
上高地を取り囲む山々が高いので、まだ太陽が顔を出していないからだった。
日の当たらない暗い水面が完璧な鏡の役割を果たして、日の光を存分に浴びた焼岳を映す。
なんて贅沢な景色だろう。

白い河原にはぽつりぽつりと人がいる。
取り囲む山々は濃緑、空は紺碧。
強い鮮やかな夏色に囲まれて、それでもまだ、大正池はブルーグレイの幻想的な世界。

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寒さを忘れて、河原に佇んだ。
今日この日、やっぱり来て良かった。
鈍っていた身体を、怠けていた心を、叱咤激励してここへ来て本当に良かった。
一歩踏み出せば、こんなにも素晴らしい景色に手が届くのだ。

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お日様がここを照らし始めたら歩き出そうかなと思った。
それまではこの贅沢な光景を眺めていよう。
あと僅かで太陽が稜線から顔を出し、夏の光を降らせる。
北アルプスに囲まれた、この谷まで。
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by norlie | 2012-08-08 13:00 | ぷらっと甲信越・北陸
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