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天空@立山黒部アルペンルート・室堂平
昨年夏の上高地に続き、今年の夏は立山黒部アルペンルートを抜けてみたいと密かに考えていた。
うまい具合に3連休がとれた土日、山頂の室堂平の天気予報が良好だったこともあり、決行することにした。

立山黒部アルペンルートは、長野と富山を結ぶ山岳交通ルートの総称で、実際にはいくつもの乗り物を乗り継いでいくことになる。
中部山岳国立公園内、つまり北アルプスの一角、立山連峰を通り、最高地点となる室堂は標高 2,450メートルに達する。

これまでの人生で、私が到達したことのある最高地点は、蔵王連峰の御釜、上高地、八甲田山など標高1,500メートル付近。
それらを一気に1,000メートル弱も上回る、人生初の標高2,500メートルへの旅である。
それも交通機関で行けるというのがなんともありがたい。

今回、私は長野側から富山側へ抜けることにした。
出発地点は長野県の扇沢駅。
そこから立山連峰赤沢岳を貫くトンネル内をトロリーバスで移動すると、かの有名な黒部ダムへ辿り着く。
黒部湖から黒部平までケーブルカー、黒部平でロープウェイに乗り換えて、大観峰駅へ。
そして、今度は立山を貫くトロリーバスに乗って、いよいよ最高地点、室堂へ到達する。

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暗いトンネル駅を抜け、階段を上り、扉を開けると、見たこともないような世界が広がっていた。
視界を遮るもののない緑の絨毯。
どこまでも見渡せる広々とした大地。
遠景にしか見たことのなかった3,000メートル級の山がまるで目と鼻の先に見える。

これが標高2,500メートルの世界。
森林限界を超えて、高木が生育しない場所。
ハイマツすらところどころにしかなく、辺り一面が芝生のような高山植物に覆われている。
緑の絨毯には、可愛らしい小さな花々が咲き、ごつごつとした岩が点在する。
波打った大地がどこまでも続いていた。

そして目の前に迫る立山連峰の3つの峰—雄山、大汝山、富士ノ折立—。
山頂部は岩に覆われており、波打つ尾根から下へ這う岩肌が、緑の大地に脈を打っているように見える。
劔岳と並び、日本国内で氷河を有する雄山は、まさに文字通り、雄大な姿だった。

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室堂平には、美しい緑の大地の中に無数の火口湖群が点在している。
その中でも最大の大きさと美しさを誇るのが、みくりが池である。
この日は天気のよさも相俟って、池は綺麗な空を映した紺碧色をしていた。

東京では36℃という猛暑日を記録していたが、ここ室堂平は昼間の最高気温ですら17℃。
春のような陽気はとても過ごしやすく、歩いていても汗をかかない。
濃い緑に覆われた山肌の美しさと、頬に受ける心地いい風に、改めて夏山の素晴らしさを実感した。

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室堂平に生育する高山植物はほとんどが初めて見るものばかりだったが、いくつか見知った花があった。
その中の一つがチングルマである。

八甲田や駒ヶ岳、安比など北東北の山々でもよく見かける小さな花で、名前を知ったのは昨年のこと。
まるですみれのようなサイズなのに、こう見えて草花ではなく小低木の一種だということには驚く。

少しだけ故郷の山を思い出させてくれるチングルマは、いつまでも眺めていたい愛らしさだった。

岩の傍らに咲く青紫色の花は桔梗に似ていて、「こんな高山に桔梗?」と首を傾げた。
看板の説明を読んだところ、どうやら『岩桔梗』という高山植物があるらしい。
黄色い可愛らしい花は名前が分からなかったけれど、家に帰ってきて事典を調べたところ、花や葉っぱ、蕾の感じがどうやらクモマニガナという花に似ているように思う。
漢字では"雲間苦菜"と書かれており、とても納得した。雲間に咲く小さな菊科の花といったところか。

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楽園のような天上の世界に、好きな花を見つけた。それは、ミヤマリンドウ。
青い可愛らしい花は、一見どこにでもありそうなのだけれど、この花には一目でそれと分かる特徴がある。
5つの花びらの間に、先がギザギザした5つの副片を持っており、全体的になんとも繊細で洒落た形をしているのだ。

実際、5つの花びらのように見えるのは、実は1つの花冠が5つに裂けているだけなので、ちゃんとリンドウの形なのである。
そしてその5つの裂片の間に副片があるところも、まさにリンドウである。
その副片のぎざぎざがとても可愛いのがこのミヤマリンドウ。

ふわふわ優しい花をつけるのはコバイケイソウ。見た目の優しさとは裏腹に、毒があるのだそうだ。
シラネニンジンは八甲田でも見たので覚えている。

自然が生み出す造形美は、本当に奥が深く、永遠の謎だと思う。

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立山最高峰の雄山は標高3,003メートル。
荒涼とした岩肌が広がる尾根には、茶色の山荘のような建物が見える。
山荘かと思いきや、実は雄山神社の社務所なのだそうだ。

上高地から遠く眺めて憧れを抱いた3,000メートル級の山々。
その山頂がこんなにも間近に見えるなんて、まるで現実ではないような感動がある。

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雷鳥沢から雄山への登山ルートが見えた。
蛇の道のようにうねった登山道を、よく見ると多くの人達が歩いている。(上の写真の左下部分)
米粒どころか砂の粒のような小さな人達が、畏怖すら感じるこの雄大な山を踏破するために向かっていく。

自然のスケールの壮大さと人間の矮小さを感じることはいうまでもないが、それ以上に人間の小さな一歩一歩の積み重ねがどれだけ大きなものになるのかを、目で見て感じられる風景だった。
自然は大きい。だが一方で、それを踏破できる人間もまたすごいと思う。

立山黒部アルペンルート。その最高地点、室堂平。
どこまでも広がる雄大な山々と、一面遮るもののない大地に無数の高山植物が花を咲かせるその景色は、まさに"天空の楽園"という言葉が自然と頭に浮かぶ。

地上とは違う。街とは違う。人間優位の世界ではない、天上の別世界。
死ぬまでに一度は行きたい場所だと思う。来てみてよかった、心からそう思った。
by norlie | 2013-08-18 12:44 | ぷらっと甲信越・北陸
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