旅のスクラップ
旅をしていると、写真がどんどん貯まっていく。
Macに入れておけば、かさむ心配もないのだけれど、アナログ好きとしてはどうしても気に入った数枚は現像したくなる。 以前は写真を現像してアルバムに綴じていたのだが、そのアルバムが棚の半分を占めるようになってからは、なんとかかさばらない方法で旅の思い出をアナログに残す方法はないかと考えに考え、数年前から始めたのが旅のスクラップ帳だ。 一週間の旅なら2〜3ページ、2泊3日程度なら1、2ページ、日帰りならページ半分。 そのページに収まる分だけで書くと決め、写真も小さなサイズで現像してもらうようにした。 シールやマスキングテープで写真を貼り、手書きの文字で旅で感じたことを書き記す。 暇な休日にちまちま作り進めているせいか、やっと2011年の旅までスクラップしたところ。先は長い。 2〜3ヶ月手をつけないのもざらなのだが、特に急ぐ理由もないので、今のところペースが上がった試しはない。 写真を選んで、レイアウトを決めて、ぺたりぺたりと貼付けながら、装飾して、コメントを書いていると、旅のときに感じた楽しさがじわじわと蘇ってくる。 ここでこんなことをしたなあとか、このご飯本当に美味しかったなあとか、天気や景色、気温、風の匂い、波の音から食べものの味わい、人との会話、笑い声、触った物の手触りまで、五感にまざまざと蘇ってきて、しみじみと楽しい旅だったなあと思い出す。 そして写真を見れば、その証拠とばかりに、とびきりの笑顔で写っている自分や友達、家族がいる。 この人、こんな嬉しそうな顔もするんだ、と発見したりもして、ああ、この人に会いたいなと思ったりもする。 旅のスクラップだけではなく、私の部屋や生活の中には、旅先からやってきたものがいくつか入り込んでいる。 それは物だったり、習慣だったり、食べ物だったり、様々だ。 例えば、フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ教会の薬局で買った、白い陶器のカップ。 沿った曲線が美しく、トスカーナらしい温かみのあるデザインが気に入っているのだが、実は大きい割に量があまり入らない。 だけど、ある日、頂いた花のブーケをこのカップに飾ってみたところ、色鮮やかな花の色が白磁に映えて、とても綺麗だった。 それ以来、時折、花瓶として使われるこのカップ。 花を生ける度に、サンタ・マリア・ノヴェッラのあの厳かな雰囲気を思い出す。 高い天井、暗めの部屋に、仄かに灯る白熱灯。 アンティーク調の棚に整然と並べられた香水瓶や薬瓶、石鹸。 それに、薬局で相手をしてくれたお姉さんの上品な物腰や、品物を扱うときの綺麗な指先まで。 そんなふうに、旅の出来事を思い出す断片が、生活の中に少しずつ設えてある。 それは、この部屋や私自身の中に旅の記憶をスクラップしているようなものなのかもと、ふと思った。 この部屋にも、暮らしにも、ノートの中にも、もっと言ってしまえば、私自身の中にも、たくさんの旅の断片がスクラップされている。 それはなんとも幸せなことだなあと思う。
by norlie
| 2013-11-09 17:00
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