物語のある物
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前回は旅のアルバムのことを書いたが、部屋の中にも旅先で出会った物がある。

たとえば、テーブルの上に長いこと飾っている白い額縁の中は、パームスプリングスにあるBallantines Original Hotelのアドカード。
このホテルに泊まった訳ではないのだが(そして次に行ったときも多分泊まることはないのだが)、このカードは唯一、最初の旅で、私がパームスプリングスから持ち帰ってきた物だ。

パームスプリングスへ行った時、乗馬をしたり、食事をしたり、かなり濃密で楽しい時間を過ごしたのだが、なぜだかお土産屋には立ち寄らなかった。
そして、当時はあまり良いカメラを持っておらず、撮った写真もピンぼけだらけ。
私がこれまでしてきた旅の中でも、最高に楽しかった旅なのに、形ある物はあまり残っていない。
だけどこのアドカードを見ると、楽しかったあの旅がいつでも蘇る。唯一、あの旅の残り香を持つものなのだ。
それに、気に入って持って帰ってきただけあり、デザインもかなり気に入っている。

そして、その隣においてあるのは、故郷から来たクローバーともみじ。
四葉のクローバーは実家の前で、もみじは黒石市の中野もみじ山で父が拾ってきて、母が押し花のように本に挟んで、私にくれた。
このクローバーともみじは、いつでも私に故郷や両親を思い出させてくれる。
旅というのとは少し違うのかもしれないけれど、私の生まれた土地に根付いた植物の葉が、一緒に私の部屋にこうやって飾られているのは、なんだか故郷が身近に感じられて、とても愛おしい。

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お茶好きの私は、とりわけ日本茶と中国茶に目がない。
中国茶を入れる茶壺や茶缶は、大連や台湾で買って来たものを使っている。

この白い茶壺は、大連にある小さな個人経営の中国茶店で買った。
そこは、氷点下の大連で、温かな空気と温かな人達が迎えてくれる本当に居心地のいいお店で、気のいい店主さんと店員さんが1、2時間平気でお茶を出しながら、おしゃべりしてくれた。
お客さんは私達以外にはほとんどおらず、1、2時間いてもやっと一人入ってくるかどうか。
日本語が上手な店主さんと、日本語勉強中の店員さんがいて、私のように中国語を話せない人でも楽しく会話ができて、滞在中一番お世話になったお店だったかもしれない。

店主さんと店員さん二人と一緒に撮った写真が一枚だけある。
皆笑顔で、本当に気のいい人達だったし、九州に来たことのある店主さんは、いろいろ思い出話をしてくれた。
武威岩茶という中国茶を教えてくれたのもこの店主さんだ。今ではすっかり台湾青茶と同じくらい好きになった。

彼らは今どうしているのだろう?
旅では一期一会の出会いがたくさんある。
もう二度と会えない人に出会っては別れ、僅かな時間を共有しただけなのに、その人との会話やその人のしてくれた話、その人の国の生活に触れて、それは生涯、私の人生に影響を残す。

旅だけじゃない。毎日の生活だってそう。
十年前、当たり前のように一緒に働いていたバイト仲間も、大学の友達も、今はもう縁遠くなってしまった人がたくさんいる。何年前を思い出しても、そういう人が必ずいるのだ。
日頃あまり思い出すことのない、そういう出会いを一つ一つ数えてみると、今日も明日も、一緒に過ごせる人との時間を大切にしたいなと思えてくる。

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造花の向こうのコルクボードには、旅で出会った葉書やキーホルダーを下げてある。
この中には、シエナから、自分で自分に出した絵葉書がある。
海外に住む友人から葉書は時々頂くのだが、旅先から葉書をもらうというのはあまりなく、自分で自分に出して、ちょっとした喜びを味わってみることにしたのだった。

葉書には手紙の代わりに、その日の日記が書いてある。
シエナの町で何を見て、何を感じ、何に心が動いたか。
その時その日、その瞬間の自分の心が綴られている。
それが私とは違う航空便で、海を渡ってうちに届くというのは、ちょっとしたタイムスリップのようで、今読んでもなんだか胸が高鳴る。
過去の自分から届いた手紙。いわゆる日記なのだけれど、葉書というところに少しだけロマンがある・・・ように思う。
日記よりもずっと色濃く、旅の空気を纏っている。旅先の土地の匂いがする。郵便局のインクの染みや、書いているときの小さな汚れ。シエナの切手と消印。
旅の空気が、そのままこの葉書に収められているのだと思う。

こんなふうに、ストーリーのある物がこれからも手元に増えていったらいいなあ。
旅先の物だけでなく、大切な誰かから頂いた物だとか、なにか背景や理由があって巡ってきたものだとか。
ただの"物"ではなく、ストーリーを孕むもの。縁を孕むもの。
そういう物に恵まれるのは、とても嬉しいことだと思う。
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by norlie | 2013-11-16 23:35 | Lifestyle
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