斜陽館にて、太宰を知る
十三湖からまっすぐ帰る予定だったが、せっかくここまで来たのだからと、五所川原の斜陽館に寄って行くことにした。
五所川原市の重要文化財・旧津島家住宅は、小説家・太宰治の生家であり、多くの人が訪れる観光地でもある。 16時半近く、閉館時間に近いにもかかわらず、土曜ということもあってか、随分多くの人で賑わっていた。 太宰治の生まれた津島家は、県下有数の大地主で、太宰治の父は衆議院議員も務めたことのある地元の名士なのだそう。 邸宅もかなり広く、1階が11室、2階が8室あり、津島家が手放した後、近年まで旅館として使われていたというのも頷ける。 外観通りの伝統的な和室かと思ったら、母屋の一部にはまるで横浜の西洋館で見るような洋風の階段や洋室もいくつか見られた。 見た目とは打って変わって、かなりの和洋折衷建築だ。 太宰治ってものすごいお坊っちゃんだったんだなあ。 青森県の作家と言えば、真っ先に名前が挙がるほど「太宰治」は有名だと思う。 でも、私は彼の作品を全く読んだことがない。 子供の頃からどちらかというと岩手の宮沢賢治の作品に親しんでいて、「地元ゆかりの作家は?」と聞かれれば、多分「(隣県だけど)宮沢賢治」と答えてしまうと思う。 有名な『走れメロス』は、かろうじて学校の演劇鑑賞で観劇したので、ストーリーだけは知っており、『走れメロス』自体は、子供心に、友情と約束にまつわる良い話というイメージを持っていた。 けれども、太宰治と言うと、何となく"ずーん"と暗いイメージがつきまとっていて、あまり著書を手に取らなかった。 私自身は太宰治について、何一つ知識はなかったのだけれど、なぜだか彼には、触れると気分が滅入りそうな印象を勝手に抱いていた。 斜陽館で、彼の作品のあらすじを少し読んでみたけれども、そこまで暗いと感じるような話ばかりではなく、色々なジャンルの小説を執筆しているなあと感じた。 『津軽』という作品を、少し読んでみたいなあと思ったりもした。 むしろ暗いイメージは、作品よりも、自殺を繰り返した彼自身の生き様のほうが原因だったよう。 丁度来ていた団体観光客の中に、「愛人と自殺ばっかりするような男は嫌いだから、俺は入んねえ」と言って、斜陽館に入らずに外で待っていたおじさんを見かけた。 確かにそうだよね、と思った。私にとっても、あまり好きなタイプじゃない。 そんな中、斜陽館の中の展示物の中に、ふと彼の印象を覆す物を見つけた。 それは太宰治が新婚の姪御さんへ宛てた手紙。 大変なこともいっぱいあるだろうけれど頑張って。 君の名前にはこんな意味がこめられているんだよ。その名前の通り幸せになってほしい。 叔父さんは君の幸せを心から願っています。 そんな感じの内容だったと思う。 なんというか、私が思っていた文豪・太宰治のイメージではなく、どこにでもいそうな、親しみやすい優しい叔父さんという感じだった。 手紙の文章から滲み出る、姪可愛さと優しさが妙に印象的で、彼もまた一人の人間であり、色々な一面を持っていたんだなあと思った。 "叔父さん"太宰治の姿は、とても人間味があって、好感が持てた。 彼に抱いていた、気が滅入るようなイメージは少し払拭されたような気がする。
by norlie
| 2014-11-07 21:51
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